目覚め
「気にしなくて良い」
王子は2人に向かって笑顔で言った。2人は少しだけ離れた場所にいる。
「人食いなんているんですね?」
「ああ、魔物だからな……ここは真帆の住む世界ほど安全じゃないんだ」
「そうなんですね……」
「がっかりしたか?」
「え?」
「真帆は昔からおとぎの国に憧れていたからな」
「……」
真帆は静かに目を伏せる。
「覚えてはいないけど……でも、子供の頃確かに誰かによく遊んでもらってたきがします。茶色い髪の男の子」
「ああ、子供の頃はこの髪も茶色かった。ふさふさの耳も付いてたな」
「ふさふさの耳……あ! なんとなく思い出しました。決まって1人の時。私と同じくらいの歳の男の子。ふさふさの耳がとても柔らかくてお気に入りだった……あの時の子がヒスイさん?」
「そうだよ」
「私……あの子が大好きだった。大きくなったら結婚したいって思ってた」
「ああ。だから、真帆が16歳になったら迎えに行くと約束してたんだ」
「なのに……何で私忘れてたのかな?」
「真帆のせいではない。人間は忘れやすいからな……」
「そうですね」
「真帆は眠っていた神力が目覚めたようだな」
「あ、ママが言ってたアレ?」
アリッサが口をはさんでくる。
「そうみたいです」
「真帆の力は魔物を跳ね返す力なんだな」
「アリッサのお母さんが邪悪な力をはね返すって言ってました」
「そうだな。確かに魔物をはね返した」
「真帆さん、すごい!」
「そう?」
「うん、すごい!」
「そうだね。魔法使いでもないのにそういう力があるのはすごいと思います」
「真帆」
「なんですか?」
「神力が目覚めたからといって無理するなよ?」
「しませんよ」
✧ ✧ ✧
それから数日が経ち、街に事件が起きた。
「大変だー!」
家にいた真帆は驚いて外の様子を見に行く。アリッサの父親は仕事へ、母親は買い物へ出ている。アリッサは学校だ。
「火事だー!」
――火事? どうして?
外へ出ると一軒の家から黒い煙が上がっている。街の魔法使いは真帆を見ると睨みつけて来た。
「やっぱり、人間をかくまったせいだ!」
「追い出せ!」
街の人々は真帆を責める。
騒ぎを聞きつけてアリッサの父親、母親、アリッサ達も帰って来る。
「うるさーい!」
「真帆さんは悪くないよ! あんた達の目は節穴なの? 真帆さんが災いなわけないじゃん!」
「アリッサ! 落ちついて」
母親はアリッサをなだめる。
「皆さん、今は火事を消すことが先でしょう? あなた達は魔法使いですよね? 立派な魔法があるじゃないですか! 1人の少女を責めるより今は皆で力を合わせましょう!」
アリッサの父親は周りに向かって言った。
――アリッサさん。アリッサのお父さん、ありがとう。
皆で協力をして火は無事鎮火した。しかし、真帆への疑いは晴れなかった。
ちょうど真帆へ会いにヒスイが現れ、事情を聞くとそれなら一緒に妖の国へ行こうと言うことになった。
「短い間でしたけど、お世話になりました」
真帆は頭を深々と下げる。
「真帆さん……行っちゃうの? また会えるよね?」
アリッサはなんだかウルウルと瞳をぬらしている。
「そうだね。きっとまた……」
「真帆さん、気をつけてね。元気で。もし、人間が受け入れられるようになったら、またいつでも待ってるから」
アリッサの母親は真帆を優しく抱きしめる。
「はい。ありがとうございます」
「真帆さん。君のお母さんの名前は?」
「え? 亜紀ですけど?」
「そうか。ありがとう、いつかまた、おいで」
アリッサの父親は一瞬だけ切なげな瞳を見せた。
「それでは。真帆さんのことはお任せください」
「はい。よろしくお願いします」
アリッサの家族は皆して別れを惜しんでくれた。真帆は切ない気持ちを抱えながらヒスイと共に出発した。




