誕生祭
翌日アリッサとフレッド、ヒスイで夕方から王国誕生祭へ出かけた。ヒスイは最初だけ王子として国民に挨拶をしていれば後は自由にして良いからということで、出てきたらしい。護衛の者も密かに付いてきていた。
妖の街はお祭り騒ぎで賑わっていた。提灯が飾られ、妖の狐の仮面を誰もが付けていた。露店が出て、人間界の祭りとさほど変わらない。雅楽の音色がどこからか聞こえてくる。
真帆は祭りの雰囲気に胸が高鳴っていた。
――皆楽しそう。それに私も楽しい。
ヒスイや皆と露店を回りながら食べ歩きをする。綿あめのようなものもあり王子が買ってくれる。
「真帆、食べるか?」
「はい。ありがとうございます」
真帆は思わず笑顔になる。
「ああ」
王子も嬉しそうだ。その様子をフレッドとアリッサは微笑ましそうに見ていた。
「アリッサ」
「何?」
「アリッサもあれ、食べる?」
「う〜ん、綿あめよりたこ焼きが良い」
「分かった」
フレッドはアリッサにたこ焼きを買いに行った。
真帆は王子と過ごすうちに少しずつ王子を気になり始めていた。人混みの中を4人で歩いて行く。辺りは暗く、花火が打ち上げられる。思わず真帆は立ち止まり空を見上げた。
真帆が顔を戻すと皆がいなくなってしまっている。
「え?」
――はぐれた? どうしよう?
「お嬢さん」
見ると優しそうな20歳位の女性の妖が、声をかけてくれた。
「迷子?」
「一緒に来た人とはぐれてしまって……」
「もしかして男の子と女の子と一緒だった?」
「はい! そうです!」
「連れて行ってあげるよ」
「ありがとうございます!」
真帆はお姉さんの後に付いて行く。どんどん人気のない所へ向かっている。
「あの、お姉さん?」
「何?」
「どこまで行くんですか?」
「すぐそこよ」
お姉さんは誰もいない森林の中で立ち止まると姿を変えた。それは、見るもおぞましい姿の魔物だった。体のほとんどが口で大きな目がぎょろりと動く。
――まさか、アレ人を食べるの?
「美味しそうな娘」
「嫌!」
――助けて! 誰か! 王子様! 神様!
あまりの恐怖に体が動かない。真帆は心の底から願った。魔物は真帆に近付き大きな口を開け、食べようとした。その時、真帆の体から真っ白な光が発せられた。それは真帆の体を包み、魔物をはね返した。
次の瞬間茂みから王子が現れ、魔物を一瞬で切り裂いた。
「真帆!」
「王子様!」
真帆は助けてくれた王子にしがみつく。王子は真帆をしっかりと抱きしめる。
「遅くなってすまない。怖い思いをさせたな」
ポンポンと優しく頭をなでてくれる。真帆は王子の腕の中で首をふる。
「いいえ。いいえ。ありがとうございます。1人じゃ食べられてました」
「無事で良かった」
「はい」
ヒスイは真帆を抱きしめる腕に力を入れる。
「真帆……俺の傍を離れるな」
「はい。離れません」
しばらく抱きしめあった2人は体を離す。
「ところで真帆、先程体から白い光を出したか?」
「え? 光? いいえ」
「出しましたよ!」
フレッドが茂みから叫んでいる。その横にアリッサがいて、フレッドの口を押さえていた。
「フレッド、何してるの? 今出ちゃだめでしょ?」
「だって、俺見たし」
「だからって、せっかくの2人っきりを……」