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滅ぼしたいもの

作者: 春呼


 ある日マオは無性に滅ぼしたくなった。

 目に付くものを沢山むちゃくちゃにしたくなったのだ。

 村の外れの秘密基地でユウにそのことを伝えると「良いんじゃない」と言ってもらえたので、その日マオは村を一つ滅ぼした。

 むちゃくちゃになった村の跡を前にしてユウは尋ねる。

「どうだった?」

 マオは答える。

「ちょっとすっきりした」



 ある日マオはまたしても滅ぼしたくなった。

 腹立たしくて仕方なくて手当たり次第ぶち壊してしまいたくなったのだ。

 椅子に腰掛けているユウにそのことを伝えると「良いんじゃない」と了承の言葉をもらえたので、その日マオは都市を一つ滅ぼした。

 燃え盛る都市を背にマオにおぶわれたユウが尋ねる。

「どうだった?」

 マオは答える。

「少しすっきりした」



 ある日マオは凡ゆるものを滅ぼしたくなった。

 憎くくて憎くくて激情が渦巻いて止まらずその衝動のままに力を奮いたくなったのだ。

 横たわったユウにそのことを伝えると「良いんじゃない」とGOサインをもらえたので、その日マオは国を一つ滅ぼした。

 巨大なクレーターがいくつも出来た大地を上空から見下ろしてマオに抱えられたユウが尋ねる。

「どうだった?」

 マオは答える。

「まあ、すっきりした」



 ある日マオは何もかも滅ぼしたくなった。

 悲しみが深く心を支配してたまらずこの感情ごと消し去りたくなってしまったのだ。

 ユウの片目をじっと見つめてそのことを伝えると「良いんじゃない」と快い返事がもらえたので、その日マオは大陸を一つ滅ぼした。

 どこまでも黒く広大な虚を眺めながらユウは尋ねる。

「どうだった?」

 マオは答える。

「たぶん、すっきりした」



 ある日マオは全てを滅ぼしたくなった。

 心はひどく凪いでいるのに明日噴火する火山のように確かな熱がマグマの如く煮えたぎっていたのだ。

 随分と軽くなってしまったユウにそのことを伝えると「良いんじゃない」と許しの言葉をもらえたので、その日マオは星を一つ滅ぼした。

 虚の竜が何匹も何匹も星を食い荒らし闇黒が覆い尽くしていく様をマオの張ったバリアの中から眺めてユウは尋ねる。

「どうだった?」

 マオは答える。

「…………すっきりしたよ」



 ある日マオは自分を滅ぼしたくなった。

 全部がどうにもならなくて未来なんてもう見えなくて生きてる理由さえわからなくなったのだ。

 縋り付くようにユウにそのことを伝えたけど、ユウはただ微笑むだけでなんにも言葉を掛けてくれることはなかった。

 その日からマオは、ずっと滅せずにいる。

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