遠能物語 2
残酷な描写が含まれます。
エグイです。苦手な人は移動して下さい。
毎朝、犬を連れて散歩していた羽田老人は、異様に騒ぐカラスの大群に気付いた。
数が尋常じゃなかった。犬と近づくと、真っ黒なカラスが集っていた真っ黒い物体が見えた。黒い物体の裂け目から、赤く濡れた肉塊が覗いていた。
通報を受けた南能署は、直ちに現場に急行。
MBS南能支局、三田村 素也記者がインタビュー
羽田老人の証言
「そりゃ~たまげたよ~。真っ黒いカタマリにカラスがいっぱい集っていたんだ。それが、人の形だもんな。裂け目から、赤黒い肉が見えてた。慌てて、通報したのよ」
焼死体に大量のカラスが
被害者は、頭部を鈍器で殴打され死亡。その後、灯油をかけられ燃やされたと推定。
南能署は殺人事件と断定し、捜査を開始。
被害者は、某国から農業研修生として遠能村○○のイチゴ農家で働いていたヴァン・ジ・フォシーさん。被害者の下の燃え残りの衣類、持ち物から判明。容疑者は、同僚の農業研修生。
直ちに指名手配へ。
民宿『松井』のオヤジの証言
「現場に二人の警官が、張り付いているんだね。毎回そこを通る度に、尋問されたわ。一度、『すぐそこだから、お茶でも飲んでったら』と声をかけると、現場を見えることを確認してついてきた。
そしたらね、タバコを吸うこと吸うこと。あっという間に、灰皿が山盛りになっちゃた。
我慢してたんだね。
『何で、現場に張り付いているのさ』と聞いたら、『犯罪者というのは、どうしても犯罪現場が気になってしょうがないらしいのさ。用心しながらも、覗きにくる習性があるんだよ。
まっ、全部じゃないがね。それの保険だよ』と、だってさ」
民宿『初河鹿』のオヤジとの話
「忙しいところ、すみません。ちょっと、いいですか」
「うん、少しならいいよ」
「事件の事で、少しお聞きしたいのですが」
「ああ、○○さんとこの実習生。驚いたねえ、まさかあの実習生がねえ~。○○さんとこは、イチゴの取引で知っているけど、感じが良かったのにねえ、人は分からないものだね」
「ほほ~、そうですか。ところで、平日なのにずいぶん車が止まってますね。県外ナンバーもありますね、商売繁盛だ」
「おかげさまでね、私のところの肉料理が評判が良いんですよ。、皆さまに、贔屓にしてもらってます。地区の皆さんにも、格安でお売りもしてます。こちらも、喜んでもらってますよ。私どもは、ポーク料理が主なのですが、供給元の豚牧場については企業秘密なんです。話せません」
地区民の他の住民の話しは、概ね似たような感想だった。
この地区は『初河鹿』を中心に、回っているようだった。
帰りに『松井』のオヤジが居たので、挨拶すると「寄ってきなよ」と言う。
かなりのオシャベリらしい。寄っていく事にした。
『初河鹿』の話しが出た。
「あそこの豚肉料理は絶品だぜぇ~。いつも、お客さんが絶えない。『初河鹿』で対応出来ない時は、こちらにお鉢が回って来るんだ。メイン料理は『初河鹿』から取り寄せ、副菜はこちらで作る。持ちつ持たれつだよ。
そうだ、まだ残っていたな。昼飯まだだろ、食っていきなよ。旨いよ~」
「そうですね。ごちそうになろうかな」
事件から数日後、6月6日、午前5時25分、南能署に一本の通報があった。
「こちら、南能警察署。事件ですか、事故ですか」
「う~ん、事件だと思う」
「緊急性は無いのですね」
「うん、そうだろうなぁ」
「状況を教えて下さい」
「3日前からの大雨で、斜面が崩れたんだなあ。そこを犬の散歩で通ったら、丸い物がゴロゴロあるから何だろうと思って良く見ると、しゃれこうべ何だなぁ。これ、事件だろ」
「分かりました。斜面に頭蓋骨があるのですね」
「そうです」
「分かりました。すぐ係りの者を向かわせます。そちらの場所、あなた様の氏名を聞かせて下さい」
南能署は大騒ぎになった。焼殺事件がまだ未解決なのに、大量の人骨発見。大事件に発展しそうな案件だ。
場所は、『初河鹿』の近く。
警察の現場入りと前後して、『初河鹿』の経営者夫婦がいなくなった。
『初河鹿』のコックと3人の従業員は口をそろえて、いついなくなったのか分からないと証言した。
後に、『初河鹿』及び経営者夫婦との取引のあった5つの銀行口座の預金が、総て引き出されていることが判明した。
三田村記者の取材
三田村記者は、警察に止められ尋問された『初河鹿』の予約客の車と遭遇した。
「来てみたら、閉まってたのよ。なかなか、予約が取れなくてね。ようやく取れたと思って喜んで来たら、閉まってるじゃない。どうなってるの、教えて」
「警察が何も発表しないので詳しい事は分からないのですが、犯人が『初河鹿』あたりに出没してるかと思われます。ものものしい、警察の動きですしね。今回は、残念ですが諦めた方が良さそうですね」
「そう・・・・・」
予約客は、車をUターンさせ帰って行った。
帰りに、『松井』のオヤジの話しを聞こうと立ち寄った。訪れると、オヤジは青い顔をし「うう」と言いながらて出て来た。
『初河鹿』と言うと、オヤジは「うげっ!」と言って口を押さえた。
さらに「今日は、気分が悪いから帰ってくれ」と言うなり、奥へ引っ込んでしまった。
キツネにつままれたような気分でいると、食肉卸、加工、販売、○○社と印字のある営業車を見た。早速、インタビューを試みる。
「おたく、『初河鹿』に肉を卸してる業者の方?」
「とんでもない~。うち等は、関係ない。無関係。野次馬。近くまで来たから、寄ってみただけ」
「そう、『初河鹿』について、何か知らない」
「うん、ふふふふ。これは、確証はないんだけどさ……。牛や豚は、加工場を経て食肉になるのよ。うち等は、そこの関連の会社。そこでね、『初河鹿』の名前がどこにも出てこないの。これって変じゃない。素人が、牛や豚を屠殺や解体をしてはいけないんだ。確か法律で、そう決まっているはずさ。『初河鹿』は、何処から肉を調達してたのかな」
「ふ~ん、面白い話しですね」
「だろ。ところで、近くで人骨が大量に出て来たそうじゃない」
「え~そんな事が……」
「えっ、あんたジャーナリストだろ。知らないの~」
「……」
「そうか、誰も話したがらないし、警察も話さないし、渦中の人は分からないのか~」
関連業者は、ニタリと笑った。
「所在不明の肉、大量に出て来た人骨、今までにない食感の旨い肉、それを合わせて考えてみなよ」
やがて、おぞましい想像に到達した三田村は、胃の底あたりから猛烈にせり上がって来る吐き気を感じ、「うぐっ!」っと口を押さえた。




