組屋敷の主
組屋敷ってみんな知ってる?
見取り図とか見たらめちゃくちゃ広い豪邸なんだぜ
大体複数人で住むらしいね。
一章 組屋敷
そんなこんなで秋日と話しているうちに仕事場である杏与力の組屋敷に着いた。
冠木門は黒く張りのある大きな幹でできていて、二間(3.6m)程の高さがある(妖の大きさは様々なので大体の屋敷は室内や門を大きめに作ってある)。門を入ると白砂利の庭があり、大きな池には河童が何匹か住み着いていた。敷台つきの正面玄関を上がると尻尾が二股の猫がいた。綺麗なオスの三毛猫で、首には赤い首輪と御守りがついていた。
三毛猫「おはにゃーございます。杏様は奥座敷にいらっにゃーます。ご案内いたしますにゃ?」
月夜「大丈夫ですよ萩。場所は分かりますから」
秋日「流石に毎日来てんだから屋敷の部屋くらい覚えてるってーの」
萩「そうですかにゃ?萩の記憶ですと秋日に厠の場所を二十四回、蔵は十二回、客間は四十六回尋ねて来られたのですにゃ」
萩と月夜がジト目で秋日を見つめる
秋日「うっせ!月夜についてくから良いんだよ!てゆうか広すぎんだよこの屋敷何坪あんだよ?!」
月夜「500坪ですよ。何百年通ってるんですか、そろそろ覚えてください」
萩「結局月夜頼みじゃにゃーか」
「ハ?オレハキオクリョクセンモンジャネーシ!!」と秋日がしっぽを揺らす萩に抗議(逆ギレ)を叫びつつもこのままじゃ埒が明かないので月夜は秋日の襟首を掴んで引きづりながら屋敷の奥へと進んで行った。(引きづられながらも抗議はぶつくさと続いていた)
_奥座敷_
月夜は冷たい廊下を慣れた足取りで進んでゆくうちに奥座敷へと難なく到達した。秋日は途中で首が締まる…と言っていたので途中で解放していまは後ろに着いてきている状態になっている。
月夜「失礼します。杏様、入室しても宜しいでしょうか?」
着いて直ぐに奥座敷の襖に向かって声を掛けた。
秋日「(は?俺はまだ戦闘態勢入ってないぞ)」
キョロキョロと焦る秋日を無視して返事を待つと、直ぐに語尾を変に伸ばす声が返ってきた。
♡「いいわよォ〜いらっしゃぁい〜」
月夜「失礼致します」
月夜は逃げようとする秋日をすかさず捕え、小脇に抱えて障子の向こうへと進んで行った。
杏「久しぶりね〜貴方達奥座敷に全然遊びに来ないじゃないのよ〜来ると言ったら給料日だけだし〜」
むせるような煙の中で水煙管を吹かす全体的に紫色の男が居た。肌は白くなよなよとした弱弱しい見た目をしているがよく見ると薄ら筋肉質で、俗に言う細マッチョのような也をしていた。顔は女の様で化粧もしているのだが低い声と身長で男と分かる。
月夜「これという用事が無いですからね」
秋日「そうだよ!早く金を寄越せよ」
ジタバタと暴れる秋日を他所に淡々と会話してゆく月夜、机の向こうで水煙管をしまいながら杏は言う。
杏「あら現金なんだから〜そんなとこも好・き♡」
彼はオネェであり、口調や仕草は女のようだが同性愛者ではない。可愛い物や美しい物に目がない為、秋日は目をつけられている。(見た目が可愛いからだそうだ)
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杏は好きと発言するや否や、秋日に獲物を見つけた狐のように襲いかかる。秋日を抱えていた月夜はすかさず秋日を盾にするとそそくさと後ろへと下がって傍観者を突き通した。盾にされた秋日は「ヒキョウモノォオ!」と叫びながら逃げようとするも杏に捕まり、接吻の嵐をお見舞いされていた。月夜は唾もつけられたなと思いながらうんうんと一人頷きながらも目の前の惨劇を観ながら山兎亭の菓子を食べたいと現実逃避していた。
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少しして落ち着いてから魂の抜け掛けた秋日を回収した。
杏「ご馳走様でした〜」
月夜「有難う御座います。それでは失礼致します」
杏は満足した様で口元を拭きながら2人に給料袋を渡してきた。すぐさま受け取ると月夜は何事も無かったかのように襖を閉めて出ようとした。
(秋日は倒れ込んでいるので月夜がまとめて貰った)
杏「あ!そうだわ〜茶の間にあの子達居るから一緒にお菓子食べたらどう〜?」
杏が机の上で頬ずえをつきながら水煙管で茶の間の方角を指した。あの子達とは同僚の事だろうなと月夜は思った。
月夜「遠慮させて頂きます。これから見廻りに行かなければならないので…」
月夜は同僚達とは基本馬が合わないので一緒になることを避けてここは見回りという口実を述べて遠慮した。
杏「あら〜、じゃあ有名な茶菓子屋の山兎亭の肉球最中全部食べちゃお〜っと」
チラッと杏が月夜を見ると、月夜は襖の前で固まっていた。
月夜「(山兎亭の肉球最中だと?あの一日10個限定の幻の逸品が?)」 心の声
杏は分かっていた。月夜は大の甘党だと言うことを、しかも普段月夜が愛用している山兎亭のお菓子を出すと必ず釣れる事も学習済みだった。
月夜「…すこし茶を飲んでから行きます」
杏「皆で仲良くお茶するのよ〜」
笑顔で手をヒラヒラと振る杏にまんまと嵌められた月夜は秋日を平手打ちで叩き起こしてから茶の間へと向かった。2人のいなくなった襖を見つめながら杏は言った。
杏「ほんと家の組員達は正直じゃないんだから」
何百年も組屋敷に務めている月夜はあまり人に心を開かない男だった。同じ年月の付き合いがある杏でも分からない事だらけだが、長い付き合いなだけあって月夜の無表情を薄らと汲み取る事ができるようになっていたのだ。だからこそ、表情に出にくい月夜は勘違いされやすいことを知っていた。
それこそ、組員と言えば冷たく当られても平気で当たってくる能天気な秋日としか組めず、ほかの複数名いる組員達と馴れ合う事が出来ずにいることを杏は危惧していた。
杏「お茶の席を用意してあげたんだから仲良くなって欲しいけれどね〜あとはあの子達次第なのよね〜」
と、組屋敷の主なりに杏も苦労していた。
(組員達の殆どは皆、保母のお節介だと述べている)
秋日の扱いが酷いけどこれが日常なんだよね。
妖怪で体も丈夫だから大丈夫だけど心身的なものは慣れだよね。(主にキスとか…)
口にはされないけど毎回解放される時には顔中にキスマークが着いた状態。もちろん秋日のライフはもうゼロよになってるよ。