9.雨に打たれて走る
【前回までのあらすじ】
家から出られなくなっていた生霊は、創始者の幽霊にバフをかけられた。
自分が生霊になってしまった原因、そして生身の体に戻るための方法を探しはじめる。
創始者が吐き出した煙は、白くもうもうと広がって行った。
すぐに部屋に充満し、目先の壁も見えなくなり、ここが仏間なのかさえわからなくなる。
不思議とタバコの臭いはしない。
冷たくて湿っていて、濃い霧のなかにいるようだった。
かつて男だった姿はただの黒い影になって揺らいでいる。
そして、形を変えていく。
直感した。
(あの子だ。)
風が吹き霧がすこしだけ晴れて、“あの子”の口元だけがはっきり見えた。
おれに微笑みかける。
ほかに誰もいないんだから、おれに笑いかけたに決まっている。
嬉しい。
照れる。
にやける。
君が笑うだけで、おれはどうにかなっちゃいそうだ。
でもすぐに霧のなかへ姿を隠し、振り返ってどこかへ行ってしまう。
「待って!」
追いかける。
霧に紛れた人影を追いかけて、走る。
けど追いつけない。
やがて人影は完全に視えなくなって、それでもおれは走りつづけた。
霧はだんだんと小雨に変わり、やがて土砂降りになった。
雨脚が強くて、もうあの子を追いかけるどころじゃなくなる。
取り急ぎ、次々に頭を叩く大粒の雨から避難しないといけない。
すこし走ると雨に白くけぶる視界の先に、四角いシルエットが表れた。
小さなベンチとちゃちな屋根のついた待合所。
バス停だ。
おれが通っている高校のわきの地獄坂のたもとにある、馴染のバス停だった。
さびた標識にも『魔都高校』と書いてあるから間違いない。
走り込んだ勢いのまま、3人掛けのベンチへ座った。
1つ空けた隣に女子が座っているのに気付いたのは、そのあとだった。
【次回予告】
Q.放課後、バス停、土砂降りの雨に閉じ込められて、高校生男女が2人きり。
さて、なにが起こるでしょうか? (答えは36話あとがきにて。)