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ツンのときもデレのときも永遠に愛することを誓いますか? 17/19 3日目、12時半頃(中)




「うーん……まぁ……そうかもねー……。……ていうかまぁ、恋愛のやつじゃなくて、家族的な意味よね。」


 ミユにしては珍しく歯切れ悪く言い、しかしなんのことはないように鍋におたまを入れて大根を引き上げたりしている。


「じゃあちょうどいいじゃん家族になろうぜ。」


「ん? うーん、でもなぁ……。ほら実幸、ウインナーもう出さないと味が逃げちゃうよ。」


 ミユがまだはぐらかそうとしているから、実幸は業を煮やす。


 実幸はミユからおたまを奪うとウインナーとロールキャベツと卵を出して自分の器によそい、ミユにも卵と糸こんにゃくを入れた。

 そして火を消して、ふたをする。

 今はおでんをつついている場合じゃない。


 実幸はミユを責めるように見つめる。


「ミユがいま守ろうとしてんのは俺? それともミユ? もうウソとかはぐらかしとかやめてほしい。諦めて正直になって。」


 ミユは実幸のまなざしをチラと見てから、箸で自分の器のなかをかき乱しながら気まずそうに口を開いた。


「もし、実幸をまた好きになっちゃったら、…好きって気持ちを認めちゃったら、また酷くなるかもしれないよ。変になっちゃって、また傷つけちゃうかもしれない。それはいや。」


 弱い声に、実幸の手は思わず伸びてミユの腕に触れている。


「ときにはいいんじゃない? ベッドの上でならさ。」


 実幸としては目尻にキラッと星を飛ばしながら言ったつもりだが、ミユはよくわかっていないようだから、あけすけに、親指で仏間を指しながら付け加えた。


「まぁ(うち)でやるなら布団のなかだけど。」


 ミユはシチュエーションを想像してカッと赤くなる。


「バッ! …………ばか。」


 大いに躊躇してから、最終的に小声で言った。

 ミユのなかでツンとデレがせめぎ合っているようだ。

 今回はデレの惜敗。しかし息も絶え絶えのツンはむしろエロい。


「ミユ、俺、大の大人だよ。嫌なことは嫌って言うし、頼りたいときはちゃんと頼れる。そういうのヘタだったけどできるようになったんだよ。で、そういう相手はミユがいいって思う。そういうの言いやすいし、レスポンスにも信用があるから。」


 ミユは箸で大根を半分に()きながら、なにげないふうに問う。


「実幸は、わたしのこと、好きってこと?」


「好きだよ。」


 即答してからの0.2秒、実幸の脳内では(ア言っちゃったよけど言っちゃったしもうこのまま行っちゃおガンガン攻めちゃお)と結論が出る。


「アッけど、なんか、そういう…ぽあーっとしたもんじゃなくて、もっと具体的なやつ。ミユが欲しいの。ミユを取得したいの。独占欲。俺のもんになってほしいの。」


 照れすぎて逆上(のぼ)せあがったミユはおもむろにこたつから抜けて、ソファーの、実幸から一番遠いところに座った。

 ふー熱い熱い、などとわざとらしく独り言ちながら、赤い顔を手で扇ぐ。


 実幸もミユを追いかけて隣に座って、ミユの腰をぐいと引き寄せる。


「アァッ」


 ミユが声を上げて、ぐねと背中をほとんど九十度に反らして、ジタバタと暴れたはずみに実幸の頬を殴っている。


「ゥグ。」


 という実幸の唸り声にミユはハッとする。


「ごめん! ……だから言ったんだよこうなるって!」


 ミユは勝手に動いてしまった自分の体に怯えるが、実幸としてはご褒美である。しかし女王様と奴隷になるつもりはないから、それは言わないでおく。


「ミユ怖がらなくても大丈夫。ほらコッチおいで。」


 腰に回していた腕を、背中をつたってあげていく。

 ミユはそれに合わせて背中を丸めていって、やがて寄り添って実幸の肩に頭を乗せた。手はためらいがちに実幸の胸元に添えられた。

 ミユの体が熱い。

 全身が心臓になったように鼓動は激しい。

 呼吸は浅く、粗い。


 実幸はミユが愛おしくなる。

 

 小さな頃は何をしでかすかわからない彼女が怖かった。

 しかし成長した今なら、彼女がどうしてこうなっているのかわかる。

 彼女はまだ、恋心に慣れずにいるのだ。

 初めての病にかかってひどく戸惑ってしまうのと同じようなこと。

 きっと彼女がこれまでにしてきた恋は、熱に浮かされるようなものではなかったのだろう。

 ここまでひどい病は、実幸が、最初で最後になるだろう。

 

「ミユ、叩くよりもいい方法があるよ。もっと簡単に俺を倒す方法。正直になるんだよ。俺に好きってみな。」


 ミユの体が力む。

 しかし実幸が強く抱いて離さないから、取り乱して暴力になることはない。

 彼女は足をピョコピョコさせたりグラグラさせたりしていたが、やがて観念した。


「………………好きぃ。」


 燃える息で喘ぐように言った。


「俺も好きだよ。ふ。ホントかわいいなミユは。」


 ミユのデレが、ツンを突破した。


「……好き。好き。好き好き、大好き。――実幸っ、だいすきっ!」


 もう堪らないといった調子で叫んでいるが、言葉だけでは自分の気持ちを伝えるにはもどかしいようで、ミユの体はうずうずして、実幸を深く抱きしめ、これ以上なく密着しているのになおも近づきたいというふうに、体をうねってこすりつけている。


 効果はバツグンだ。


 自分がそう思っている相手から、同じ気持ちを伝えられる威力の、なんと強力なことだろう。


「はは、ミユ、……俺やられちゃったよ。」




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