ツンのときもデレのときも永遠に愛することを誓いますか? 15/19 3日目、12時頃
そわそわして五分前から玄関先で待っている実幸である。
そんな実幸を見てミユは笑う。
こういうところは昔から変わらない。
ミユのコートのなかが部屋着なのも、化粧をしていないのも指示通りだったが、しかし実幸はミユが両手に抱えているものを見て首をひねった。
「なんで? 土鍋じゃないけど。」
アルミの小鍋だ。
「なにそのこだわり? おんなじのあるでしょこっちにも。」
そう言いながらミユは実幸のわきを通って家に入り、実幸も続く。
「なんでなんで? 全部持ってきてよ。土鍋ごと、全部持ってきてほしかったのに。」
「そういう意味だったの? 駄目だよ親も食べるんだから。」
ミユは言いながら、小鍋を台所に置き、戸棚を開いて土鍋を探しはじめる。
「え~……そういうことじゃなかったんだけど。そういうことじゃなくて、これはひとつの証明であってぇ……。だれよりも俺を選んでほしかった。俺のために悪いこととか、親を裏切ったりとか、してほしかったのに……。」
「おぅおぅ急なヤンデレ。二人分なんだからこれくらいで充分でしょ。」
ミユは土鍋を見つけて洗いはじめる。手際がよい。
「それにロールキャベツもウインナーも三つずつあるんだよ。朝足したんだから。」
「ほんと? 俺の好きな具、憶えてるんだ。」
「えッ? や、ちが、……。……いや、うーんまぁ、そういうことになるけど……。」
ツンと理性とのせめぎあいがミユのなかで起こっているようだ。
そしてツンの抑え込みに成功したらしい。
ミユが洗った土鍋を取り上げて、実幸は布巾で拭き、小鍋から中身を移し替える。温かかったおでんがいくらか冷めた。
「お、三色団子も入ってる。ミユ好きだったよね。」
「うーん、まーねぇ……」
平静を装っているが嬉しいのを隠しているのは実幸にバレている。
居間のこたつの上に用意していたカセットコンロに土鍋を置いて、火をつけた。
ミユはこたつに入ったが、実幸は冷蔵庫へ行った。からしと柚子胡椒と昨日の余りのどろよい(レモンスカッシュ味/アルコール分9%)を二本を持ってきて、一本をミユに渡す。
実幸もこたつに入った。
「昼から?」
とミユが笑い、
「カンパイ。」
と、実幸は言って、二人は飲みはじめる。
「今日のおでん、はんぺんは? なかったけど。」
ミユははんぺんも好きだったはずだ。
「あーまぁ、味覚変わったっていうか……、はんぺんは触感で、三色団子も色が好きだっただけで味はそれほどだったのに気づいたというか……。」
「好きじゃなくなったの?」
「そうなるね。」
「じゃあたとえばよ、三色団子のミドリとピンクのちょうだいって言ったらくれるの?」
「あげないよね。」
「じゃあいまも好きってことだよね?」
「そうだね。」
「俺のこと、いまも好きだよね?」
ミユは半笑いになって、疑問を投げかけるように実幸を見る。
しかし実幸はミユの返事だけを待っているから、見つめたまま答えない。
結局ミユは俯いて、からしを器に捻る。
実幸としては、ミユに好きと言ってほしい。絶対にだ。
自分から頭を下げてお願いして、仕方ないから一緒にいてあげるっ! の構図は絶対に避けたいのだ。
イニシアティブは握りたい。
なんならプロポーズもミユからしてほしい。もう一度だ。
しかしそれではフェアじゃないだろう。
イニシアティブの半分は、ミユに握ってほしい。
愛したいし、愛されたいのだ。
「ミユさ、昨日の朝、俺に『口が臭い』って言ったよね。じゃあたとえば鼻毛が出てたら言うでしょ? 社会の窓が開いてたら、言うよね? 寝癖とかもさ。」
ミユは破顔する。
「そりゃ言うわ。」
「気を使って言わない人もいるんだよ。だから、そういうのはっきり言ってくれるの助かる。俺が間違ってたら、間違ってるよって言ってくれる人がいいよ。んでもって俺素直だからそう言うのちゃんと聞くでしょ? ミユのこと尊敬…とまではいかないけど信頼してるし。……でも昨日のパンチラはミユ断ったほうがよかったよね。俺じゃなかったら危なかったぞ。」
「あんなの実幸にしかしないっつの。」
「え? 俺のこと好きだから?」
「償いだよ!」
ミユは頬を赤くして語気を荒くするが、実幸は軽やかに脱線を戻す。
「んで昨日の朝さ、俺味噌汁作ってって頼んだでしょ? 俺、料理ってあんま人に頼まないんだよ。俺のが上手いし、料理好きだし。でもあの時だるかったし、お願いしてみよっかなって、ミユだしいいっかなって思って。で作ってきた味噌汁、具がナスで、かつミョウガいれてきたじゃん。美味かった。ナスの味噌汁好きだし、ミョウガとか薬味も好きなんだよね。そうめんの味噌汁にもミョウガ入れるんだろうなって思ってさ。あ、それって夏だなって。夏も一緒にいなくちゃダメじゃん。んで、豚汁とかにはショウガ入れるんだろうなって思って。冬でしょ。それから餃子にもショウガ入れるじゃん夕濵家。もう年中じゃん。今年も、来年も、その先もずっとさ。けどいちいち家まで来るの面倒でしょ? 一緒に住めば楽だよ。で、結婚したいんだけど無理?」
おでんが煮立って、ふたがガタガタ鳴った。




