表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/72

6.無礼を責める

【前回までのあらすじ】

 家族がだんだん減っていき、ついに彼はひとりきりになった。




 かすかに焦げ臭いにおいがして、気がついた。


 台所の小さなテーブルとセットになっている椅子に座ったまま、おれはぼんやりしていたらしい。


 外から入る光はピンクがかったオレンジ色で、いまが夕暮れだとわかる。


 食事の準備を、と思うが、体は動かない。


 もう必要がないからだろう。


 もう、この家にいるのはおれだけなんだろう。


 おれも今夜きっと、ここからいなくなる。


 秒針が時を刻む「カチ コチ」という音――喧しい家では決して聞こえることのなかった音が、ただただ鼓膜を叩いている。


 ふと気づく。


 異臭はタバコだ。


 廊下の先にある仏間から臭ってくる。


(……父さん?)


 仏間に行く。


 仏間は狭い庭と接している。

 仏間と庭との境になっているガラス戸が開いていた。

 物干し竿にはなにも掛かっていないから、夕焼けがよく見える。

 そして庭を向いて、畳の縁に、男が腰かけていた。


(だれ?)


 黒い半袖のTシャツに黒のチノパン。

 フェス帰りみたいにラフだが、パリピには見えない。

 露出した二の腕や首は骨ばっていて肉付きも色艶も悪く、不健康そうだ。

 知らないおっさん。

 そのくせ懐かしいような横顔なのはなぜだ。


「知らんはずない。」


 のろっと体を回して片足だけ畳に上げたから、Tシャツの前の柄が見える。

 赤の『×』。

 おれたちの住むこの国――“魔都”の国旗だ。


「ヒゲなんか書き込むからわからんくなる。」


 思いもよらない人物で、おれはポカンとしてしまう。

 こっちの姿は有名じゃないからすぐには気づかなかっただけで、この国じゃ知らない人はいない。

 彼は魔都の創始者だ。

 魑魅魍魎を容認し奇々怪々に見舞われる世にも奇天烈な“魔都”なんていう国を創った男。

 そして、何十年も前に死んだ男だ。


(幽霊?)

 

 でもなんで(うち)に?

 このタイミングで?

 普通迎えに来るなら親父とかじゃないの?

 いやそれよりも、


「タバコやめてください。小さい子供が居るんです。」


 嫌悪感が隠し切れない。


「どこに?」


 返す言葉がなくて息を呑む。

 彼の言うとおりだ。

 反射的に言ったが、家族はもう……


「ここには俺とおまえだけだよ。」


 もしかしてこいつが家族を連れて行ったのだろうか?

 おれから家族を奪ったんだろうか?

 この怪現象のなにもかもの原因では?

 そう思うと、怒りに身の毛がよだった。

 

「おまえ、みんなをどこへやった?」


「どこにも行ってない。みーんな家にいるよ。安心しろ。」


 ついさっき言ったことと矛盾している。


「この家からいなくなったのは、おまえのほうだよ。」


「は?」


「おまえの体は病床に寝っ転がって意識不明って状況だ。意識だけ頭ん中から飛び出してここに居るって寸法。いわゆる生霊ってやつさ。」




【次回予告】

 国の創始者の幽霊が、彼に真相を告げる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ