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ブラコンの妹が兄(おれ)と結婚するために世界を再構成しちゃった件 2/4

【前回までのあらすじ】

 軽い気持ちで「大きくなったら兄ちゃんと結婚するかぁ?」と言ってみた実幸、玉砕。




 実幸が二十六、牡丹が十六になっても、実幸の腕枕は牡丹のものだった。


「お兄ちゃん。」


 牡丹が呼びかける。

 牡丹の透明度はだいぶ低くなって、かなり人間味が出てきていた。

 ありていにいって肉感が出てきていた。


「ねぇ、お兄ちゃん。」


 一人用の、狭い布団のなかで、牡丹はなおも体を押しつけてくる。


 気が気ではない。


「なんだい。」


「今日から二人きりだね。」


 父親は相変わらず海外で暮らしほぼ戻らず、すでに離婚していた母も新しい恋人と暮らしはじめてからこの家に来ることはほとんどなくなり、兄弟姉妹はそれぞれ進学や就職を機に家から出ていった。

 そして今日、春から大学生になる六花が大学近くのアパートへ移り、この家を出たのだった。


「寂しくなるな。」


 牡丹を見なくても、ひた、と視線をこちらに据えているのがわかる。


 牡丹は恐ろしい顔をするようになった。


 結も晶も六花もそうだ。たぶん遺伝なのだろう。


 牡丹がもぞもぞ動いて、実幸の上に乗っかって来る。


「……どうした?」


 胸のドコドコ(>ドキドキ)が伝わってしまうからやめて欲しい。

 いや、体の中心のカチコチが伝わってしまうからやめて欲しい。


「牡丹はいなくならないからね。」


 顎を実幸の胸の上にのせて話す。

 人前ではきちんと“わたし”と言える子だが、実幸の前では違う。

 人前ではクールにしているのに兄にだけデレる、――いわゆるそれである。


「んーでもまぁ、夢とか、……好きな人とか? ……あるんだったら、出てってもいいんだからな。」


 牡丹が体を上げて、実幸のへその上に座る。

 見下げられる。


「おにいちゃん、好きな人いるの?」


「んん? いや、……べつに……」


「四年後どうするの?」


「四年……?」


「ミユちゃんと結婚するの? 好きでもないミユちゃんと結婚するの?」


「なんだい急に?」


「ミユちゃんと結婚するの?」


(三回目ェ……)


「……そんなの子供の約束だよ。結婚しないよ。」


「なら、」


「ん?」


「……なら、牡丹と結婚する?」


「んお?」


 突然の提案に牡丹の様子を観察してしまう。

 切なげに頬を赤らめているので、きっと本気なんだろう。


「明日。」


「あした?」


 いきなり過ぎて驚いて、実幸の声は上擦った。


「牡丹もう結婚できる歳だよ。」


 つい先日、誕生日を迎えて十六になったのだった。


「なーに言ってんの、兄妹は結婚できないんだよ。」


「兄妹でも養子だから結婚できるよ。学校で習ったし調べた。」


 それについては実幸も十年以上前から知っている。


「でも、…家族だろ?」


 “家族”の絆は、実幸にとって法よりも重要なものであり、そして彼を強く束縛していた。


「でもおにいちゃん、牡丹のこと好きでしょ?」


「そりゃ好きだけど、……そういう好きじゃないよ。」


 “妹”を説得しなければと実幸は困って、嘘をついたのだ。


「うそ。牡丹が後ろから抱きしめてたときひとりで……したことあるでしょ? 牡丹寝てるフリしてたけど起きてたよ。」


「あれはだって牡丹が離さないからでそもそも生理作用だしごめんなさい本当にすみませんでした警察だけは勘弁してくださいもうしません。」


 焦燥にかられて言い訳が飛び出すが途中で往生際が悪いと観念して間髪入れずに謝罪に切り替える実幸である。


「いいの。」


 牡丹は恥ずかしそうに視線をそらす。


「牡丹もおにいちゃんの隣で、したこと……ある…から。」


「ふえ」


「牡丹、おにいちゃんが好き。」


 牡丹が上半身を倒してくる。

 唇を近づけてくる。

 すんでのことで口と口とのあいだに手をはさむ。


「いけません!」


 牡丹の下から這い出て、座位のまま布団から離れた。


「牡丹いいかよく聞きなさい。わかるよ兄ちゃんイケメンだもんね、家事労働とかもちゃんとできるし、しかも性格もいい。すぐ近くにこんなできた人間がいたらそりゃそうだ、好きになっちゃうさ。でも、牡丹。人間ってのはいーっぱいいるんだ。牡丹は外に出たことがないし、だれともお付き合いしたことがないからよく知らないんだよ。いや六花みたいにとっかえひっかえはダメだぞ、そういうことじゃなくて。つまり、……つまり、ちょっと落ち着いて、家の外の世界を見る時間が必要なんだよ。まだよく知らないから、兄ちゃんがよく見えちゃうだけ。わかった?」


「わかんない。」


 牡丹は四つん這いになって近づいてくる。


(なにこの風景夢で見たことある。)


 たしかこれから先、彼女の胸を――――。


「いけません!」


 実幸は立ち上がると、廊下へ出た。


「今日はひとりで寝て、頭を冷やしなさい。おれは二階で寝るから!」


 結果から言うと、実幸はいろいろ考えてしまって一睡もできなかった。




 翌朝、牡丹が消えていた。

 久しぶりに神隠しにあって、戻らなかった。




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