40.怒る
【前回までのあらすじ】
自分だけの世界に閉じこもった主人公の寝室に6話から土足で踏み込んでずっとタバコを吸っていた創始者の幽霊、主人公が自ら死んだ暁には彼の人生を“失敗”として“1”とカウントすることを伝える。
おれの、これまでの全部が、たったの、“1”?
ちょっと変わった家庭環境に悩んだり、それを人から『変だね』って不憫がられてモヤっとしたり、疲れて帰ってきて夕飯作ってんのに家族から『まずい』って言われて不貞腐れちゃったり、長男だからって我慢しなくちゃいけないの辛かったり、必死に笑い取ろうとして『スベってるよ』って友達から笑われて恥ずかしかったり、『○○ちゃんおれのこと好きかも……』って推測が幼馴染を皮切りに皆目当たった試しがないし確かめる勇気もない意気地なさが情けなかったり、テスト勉強だるかったり、頑張ってんのが急にバカらしくなったり、悪いことしてないのに事実無根で責められてムカついたり、周りに人がたくさんいるからこそ膨れ上がる孤独に苛まれたり、誰かを無遠慮で傷つけてしまったかもしれないっていう曖昧な罪悪感で焦ったり、被害妄想で他人がみんな敵に思えたり、なんとなく悲しくなって泣いちゃったり、――。
何度となく折れそうになって、でもここまでなんとかへこたれないできたけど、それが“失敗”だかなんだかいうレッテル貼られて済まされるような――“1”?
「おれを数えるな。」
おれより先に、おれの感情が口を動かした。
その呟きに、おれは気付かされる。
おれは怒っている。
「……おまえが、おれを、失敗だとッ、勝手にッ! 決めつけんなッ!!」
怒りに顎が、心臓が、全身が震えて言葉は途切れ途切れになったし、語彙が足りなくて、もどかしくて、悔しい。
そんなおれを創始者は鼻で笑って、笑気の孕む啖呵を切った。
「いいや、おまえは決めつけられたいんだ。そうだろ? 与えられた役割を作業みたいにこなすだけ。そうすれば何も考えずに済むからな。大きな他所から押しつけられた幸福や、世間の空気が臭わす漫然とした幸福を、疑いもせずまったく幸福そのものだって受け入れられるような奴さ、おまえは。
おまえは蟻の一匹。先に何が待っているとも知れない行列に嬉々として並べるような奴。蜘蛛の糸が垂れてきたら有象無象に右へ倣えでのぼって行っちまうような奴。そうやってもし雲の上まで辿りついたとして、果たして天国の奴隷だ。
冗談キツイぜ。
地獄の底の底、血の池地獄の水底まで堕ちたとしても、よもや魂の奴隷にまで堕ちるなんざぁ、俺には絶対にありえない。
俺はなぁ、地獄を遊び場に変えたんだ。
オセロみたいなもんだよ。真っ黒の盤上を、ひとつ駒をひっくり返してその色に染めあげた。しかしそれは白じゃない、赤だ。それがこの国だ。天国でも地獄でもないところ、そしてそのどちらでもあるところ。それが、俺が王となって創りあげた、この地――魔都だ。
俺が垂らす糸は絶対に切れないよ。
安心してのぼりつづけろ。愚民どもと共に永遠にのぼりつづけろ。労働力として生産性を向上しつづけろ。俺を楽しませつづけろ。
そうしている限りおまえの生命は“成功”だ。
どうか労働力ひとつとして、精々必死こいて納税して、次の労働力を生産して、綺麗にくたばれってくれ。そうすれば俺が“成功”だって褒めてやるからよ。
さぁ! おれを楽しませるためだけに生きて死ぬがいい!」
ついに本性現しやがったなこのクソ政治家がァ。
【次回予告】
次回、実幸のターン。
【参考】
芥川龍之介「蜘蛛の糸」




