27.猫に接待される
【前回までのあらすじ】
ネコがかわいかったのでついて行ってみたら大歓楽街の一角に到着したしネコは化け猫だった。
狭くて油汚れのひどいキッチンを横切って、小綺麗で広い空間に出る。
薄暗いホールには、中央の舞台に向かってテーブル席が円を描くように並び、そのすべてに高級そうな革張りのソファーが設えてある。
舞台の天井のミラーボールが強い照明を黄金色に反射して回転していた。
不思議なのは、舞台に鉄棒が3本、縦につけられていことだ。
……サーカスとかなのかな?
視線を走らせながら、おれは化け猫先輩について行く。
「あの、ここは?」
なんとなく断れなくてここまで来ちゃったけど、先輩はどういうつもりなんだろう。
「あたしん家。」
先輩が立ち止る。壁際のボックス席だ。
「どうぞおかけにニャって。」
先輩は劇がかった口調で営業用のセリフを言い、おれは従った。
座るやいなや、先輩はすぐ隣に座る。
ミニスカートから露出した生の太ももが、ピッタリくっついている……!
純粋無垢で健全な高校生男子たるおれの体は、ビシィッと硬直した。
「なに緊張してるの? さっきはあたしのこと触りまくってたくせにぃ。」
……それって人の姿の先輩にも触っていいってコト?
「なんという猫カフェ……」
いけない。声に出てしまった。
「あ、ダメなんだよ。ここじゃお触り厳禁。」
すっと身を引いて向かいの席に座ってしまう。
……残念。
「あたしマトコウ3年13組、コハクっていいます。よろしくお願いしまーす。」
「あはい。よろしく。…………って、ん?」
ナゾの店に連れてこられて席に案内されて挨拶されて、……この状況なに?
「これからなにが始まるんです?」
まさか…………恋?
「接待。」
セッ……タイ?
……オッケーかかってこいや。
「君って牡丹のお兄ちゃんでしょ?」
え牡丹?
「牡丹、よく差し入れしてくれるの。変化できない野良猫たちがとっても喜んでおりますって、そのお礼。」
やっぱり!
冷蔵庫の食品が鮮魚中心にときどきなくなっていたのは、やっぱり勘違いじゃなかった。そして食欲旺盛な長女・次男、疑ってごめん!
「こないだの集会で言ってたよ。お兄ちゃんを助けてーって。」
牡丹って猫の集会で発言権持ってんの?スゲェ。
そのコミュ力を人間にも発揮してくれたら兄ちゃんは安心なんだけどなー……。
……って、今なんて言った?
『助けて』?
「おれを?」
「あれ? 君、生身に戻りたいんだよね?」
あ、
あっぶねぇ。
また忘れてた。
おれは今、生霊だった。
「戻りたい、戻りたいです。……できるんですか?」
「できるよ。君はまだやりかたを知らないってだけ。生身に戻ることも、いま生霊に成っちゃってることも、あたしら化け猫が存在することだって、タネも仕掛けもあることで、知っちゃえば『あーあ、そんなことか』って思えるような、単純なことだよ。」
「……でも、……いままで無理だったんですけど……。」
「ダイジョブ楽勝だよ! “説明”聞くだけでいいんだから!」
ええ……? 胡散臭ー……。
「おーしじゃあ“説明”はっじめっるよー!」
コハク先輩はピンクの唇をペロと舐めた。
【次回予告】
説明が始まる。




