24.笑っちゃう
【前回までのあらすじ】
スーパーからの帰宅途中、アクシデントがあって卵のいくつかにひびが入ってしまったので、夕飯は卵料理に決定。
今日の夕食はふわとろオムライスだ。
食卓に食事を並べて、定位置に座り、手を合わせて、やっと気づいた。
6人分しかない。
(――あ、おれメシ作らなくていいんだ。)
軽く噴き出す。
「いただきます。」
おれが言うはずのセリフを長女が言う。
その様子が自然で、おれは驚いた。
「「「「「いただきます。」」」」」
みんなが食べる様子が自然で、おれは驚いて笑った。
(おいおい生霊が作ったメシこいつら普通に食ってるよ。わろた。)
食事の様子を軽く笑いながら見ていて、ふと気付く。
倒れてから生霊だと知るまでに体験した怪現象がどういうものか、すこしわかった気がする。
やっぱりおれは1人分、つまり自分の分は作っていなかったらしい。
でもちゃんと6人分作っていたみたいだ。
食事ごと見えなくなってたんだな。
おれがここに居ないって、ちゃんと悟ることができた子から、順に。
そういう子が、ここに居るって信じてるおれとは噛み合わなかったんだ。
だから前はだんだん減っていくように視えたけど、いまは、おれは生霊だと自覚があるから、みんなが視えている。
みんなはおれのこと、視えていないけれど。
(……いや、そうでもないな。)
末の妹が口の周りにケチャップをつけて、こっちを視ている。
目が合っている。
この子は霊感が強くて何もない空を見つめていることも時々あったけど、つまりこういうことだったんだろう。
「兄ちゃん、ご飯いらないんだ。お腹空かなくなったから。」
試しに話しかけてみる。
「強いね!」
応えた。
みんなが、とくに長女と次男がぎょっとする。
「話しかけちゃダメ!」
「目も合わすなよ。」
あぁ偉いぞ2人とも。
おれがやっていたように、きちんと叱ってくれている。
おれは肩をすくめて大げさに怖がりながら、口に人差し指を当ててみせる。
「えっへ。」
末の妹がしゃっくりをするような独特の笑い方をして、そのあとスンとして視線をそらした。
おれは流し台に行って、翌日からのおかずを作り置きすることにする。
実体はないが料理は作れるらしい。
不思議だが都合はよかった。
銅鍋に火をかけゴボウを水にさらしているあいだに、ニンジンの皮をむく。
ニンジンを回しピーラーを引きながら(スーパー……かな?)と思う。
だっておれは鞄なんて持ってなかった。
なのに、なぜか、レジ前で財布を探すときにだけ、おれの肩にかかっていた。
あの鞄も、おれと同じようなものなんだろう。
ほんとはここに在ったらダメなのに、現れてしまったんだ。
都合が悪いこと――整合性も物理法則も一切合切、無自覚に忘れてしまって、おれはごく平然と存在しようとしている。
(いよいよヤバくなってんのかな……)
創始者の幽霊にかけられたバフの効果が切れはじめているのかも。
(急がないとやべーんだろうな。……でもなんつーか……)
危機感が薄い。
たぶん背後で、みんなが元気にやっているからだ。
そんなに心配しなくていいみたい。
おれは、必要ないみたい。
【次回予告】
長男不在の、三善家の様子。




