22.幼馴染をはずみで抱く
【前回までのあらすじ】
スーパーで財布を忘れた主人公、幼馴染に金を借りる。
そしてツンからのデレを期待しないわけでもない。
【御注意】
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買い物袋に品物を詰めるためのテーブルへかごを置いた途端、ミユから肩パンを喰らう。
「もっと愛想よくしろよ。客だからって神さまってわけじゃないんだからさ。」
袋に品物を入れるのを手伝ってくれはしたが、スーパーを出るまでミユはずっと黙っていた。
「ごめん金すぐ返すから、明日とか。てか家来る?」
せっかく謝ったのに、返事をしない。
でも隣を歩きつづける。
なんだよ。
「利子的なコト? 3日で5倍みたいなそーゆーこと? そんな払えないよ。」
返事をしない。
なんなんだよ。
「でもどうしてもっていうなら……体で払う? おっぱいもむ?」
小首をかしげて、目を見開いて上目づかいにして、眉を困らせて、口をすこし尖らせて――要は自分のことを可愛いと思っている女子がやる困り顔(ドヤ顔)を研究するのが楽しくなってくねくねしてしていると、
胸を触られた。
ミユが立ち止まるから、おれも止まる。
ミユは指を広げて、胸の左側から中心へ、なにか探るようにゆっくりと擦り動かした。
……まさか、乳首を探しているんじゃあるまいな?
おれは両手にパンパンの買い物袋を提げているから抵抗できない。
胸の中心あたりで、なにかを確かめるように手を止めて数秒後、何事もなかったように手を引いて、また歩きはじめた。
「ひらたい。」
「当たり前だろ。おれをなんだと思っていやがる。」
「なんなの?」
「……うーん、なんだろ……」
「あんたはあたしのなんなのよ?」
「いやなんの話だよ?」
「あたし告られたよ。」
「急」
「で、そのときにね、あんたが許可したんだって言われた。あんたに許可もらったから付き合わないかって。は?」
「や何キレてんの?」
「あんた許可したの?」
心当たりはしっかり有った。
「……龍ヶ崎くん?」
「あんた許可したんだ?」
「いやまぁ……べつに。なんていうか、おれに訊くこと?って、言った。好きにしたら?って。……ミユのことをお願いしますとかそーゆーのはまじ言ってないよ。」
「……あたしどうしたと思う?」
「なにが?」
「そいつと付き合ったって思う?」
「知らねーめんどくせー。」
高らかに本音が出た。
泣きそうな顔をするんじゃないよ。
たくしょうがねぇなぁ!
「ごめんごめん、ごめんて。……どうしたの? 付き合ったの?」
横断歩道の赤信号を背にして、ミユが真剣な顔をする。
ここが2人の帰路の分かれ道で、ミユの家は横断歩道を渡ってすぐ。
おれん家は渡らずにすこし歩いたところにある。
が、そんな顔されたんじゃ帰れない。
「……付き合ってほしいわけ?」
どうすりゃいい?
どう答えたら正解なんだよ。
この問題が大変難しいのは、おれがミユと婚約しているからだ。
大人になったら結婚するって、小学生のときに約束しちゃった仲なのだ。
おれがまだ結婚っていう制度をよく知らないいたいけなときに、ませたこいつに詐欺的に結ばされてしまったのだ。
逆にいえばミユはおれのだ。
……なんだけど、多分ミユはそんなの忘れてる。
だっておれに冷たすぎる。
だからミユが約束を思い出すまで、おれもすっかり忘れたふりをすることに決めて、結婚っていう墓場に入るまでは自由時間を楽しもうと思ってる。
逆にいえばミユもそうだ。
結婚までの自由時間のあいだに、もしミユにいい人が見つかれば、別に、約束なんて、なかったことにしていい。
おれは何番目かのキープでいい。
……キープでいいんだけど。
「まぁ、どうかなぁ、さっきみたいな卵買うときとか、いてくれないと困るなぁ。」
「バカッ!」
ミユはそう言って振り返った勢いのまま横断歩道を渡ろうとする。
トラックが走り込んできていて、力任せにミユの体を引っ張った。
はずみで、ミユは懐に収まっていた。
「おまえバカいっつもこうなんだから周りを見ろって言ってんだろうがいっつも! いつか不注意で死ぬぞバカ!」
ミユは目を丸くしてまっすぐに見上げながら、おれのドデカい声を聞いていた。
まじで焦った。
から、思わず“お兄ちゃん”属性固有技“ゼロ距離激怒”を発動してしまった。
バカって2回も言っちゃったゴメン。
……また反発がきついんだろうな……と思っていると、
抱きしめられた。
強く。
ゆっくりと、ぎゅうっと。
……この感触。
おれの知らないうちに、こいつ、だいぶ成長しておるな??
見下げてみて、ミユの顔は見えなかったけど、耳まで赤くなってる。
_人人人人人人人人人人人_
> 不 規 則 デ レ <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
ミユは昔からデレのタイミングがよくわからんのである。
ツンツンツンツンツツツンツンツーンツンツンツンデレツンツンツツンツツツーン
↑
ココ
くらいわかりにくい。
ガバッと離れると、顔をぐちゃぐちゃにしてミユは叫んだ。
「~~~ッ! キライ!」
また勢いよく振り返って、でも今度はちゃんと信号と右左右を確認したあと、横断歩道を走って行った。
「なんなんじゃありゃあ?」
ミユの背中をしばらく見送っていたが、手が軽いのに気づいて下を見る。
両手の買い物袋が落ちていた。
卵のいくつかがダメになっていたり、ひびが入ってしまっている。
夕飯は卵料理に決まった。
【次回予告】
あたしだってほんとはもっとデレたいのに……。
素直になれない思春期ロンリネス☆彡




