20.鬼のツノに触れる
【前回までのあらすじ】
気になる女子を探して学校の怪談が集結する旧校舎へ向かった主人公(生霊)、結界に阻まれ消滅しかけたところを、通りすがりの青鬼にお姫様抱っこされる。
地獄の窯に放り込まれたあとクモの糸が垂れてくるんだけど有象無象に踏み台にされて早々と脱落、沈没、真っ赤な激辛キムチ鍋の出汁になる――という夢を見て、飛び起きる。
知らない白い天井に、硬いベッドに、周りを取り囲むカーテン。
病院?
体に戻った?
急いでベッドから降りてカーテンを開ける。
……違った。
誰もいないが、ここは保健室だ。
額に違和感があって、触ってみると小さな四角い紙が貼りついていた。
お札?
……使役された?
剥いでみると付箋で、メモが書いてある。
『放課後、生徒指導室に来い。青鬼先生』
青鬼先生。
マトコウの百不思議のひとつ。
実物を見たことはなくても、存在を知らない生徒はいない。
でも自分で自分のこと『青鬼先生』なんていうだろうか?
まぁ本名知らないけど。
掛け時計を見るとちょうどいい時間だったので、保健室を出て生徒指導室に向う。
何の容疑か知らないが、指導したいってんならすればいいさ。
できるもんなら!
青鬼先生に訊かれるままに洗いざらい事情を話してみると、おれが生霊だってことがあっさり受け入れられたので、張っていた気がすっかり抜けてしまった。
せっかくだしいろいろ訊いてみることにする。
ある女子になんらかの魔法か、呪いか、(恋の)病をかけられてしまった可能性があると。そしてそもそも、そんな生徒がいるのかと。
「いるよ。」
先生は即答する。
机に置いていた生徒名簿を開いてみせた。
「ここ。」
青白くごつい指の先には『白井 霙』とある。
「しらい……みぞれ?」
よく読めたと思う。
なんだか懐かしいリズムで、口のなかで何度か繰り返してみた。
やっぱり一目惚れとか関係なしに昔から、この人のことを知っているんじゃないだろうか?
「思い出せない?」
心を読んだように先生が言う。
「……はい。」
「まぁしょうがねぇよ。そういう設定だから。」
セッ…………テイ?
「憶えにくいんだよ。クラスメイトでも、とくにヒトからはいまだに忘れられがち。」
「何者なんですか? 妖怪忘れさせールとかそういう?」
「雪女。」
_人人人人人_
> 雪 女 <
 ̄^Y^Y^Y^ ̄
なんでかは忘れたが、雪女の話は知っていた。
森で猛吹雪に見舞われ、小屋で一晩明かすことになった二人の木こりの、年老いた男を殺し、若い男を顔がいいとかなんだかの理由で生かすのだ。
_人人人人人人人人人_
> 顔 面 差 別 <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
そして「雪女に会ったということを誰にも話すな、さもなくば殺す」と脅す。
んで、しばらくしたあと雪女は人間に化けてイケメンに会いに行って結婚して大家族になるのだが、男がうっかりむかし雪女に会った話を本人の前でしちゃうもんだから、嫁に逃げられる、とかそういう話だ。
俄然恐くなってくる。
みぞれさんはガチでおれを殺しに来ていたのではないか?
おれは実は殺された木こり一族の末裔で、因縁に終止符を打つために命を狙われているとか……?
「ちゃんと白井と話してみるといい。」
そんな、高校生の話し合いとかで済まされる話なんだろうか?
被害者の会とかに連絡するべきなのでは?
「大丈夫だ。危険な奴じゃないから。」
「どうしてそんなテキトーな……」
「テキトーじゃない。白井は危険じゃない。……まぁ粗暴ではあるが。」
……粗暴……。
おれは疑いの目で青鬼先生を見つめたまま、納得はしない。
やがて先生は焦れて、強面を歪める。
「しょうがねぇなじゃあ明日、昼休みにまた来い。」
「エなんでですか?」
衝撃の展開で声が大きくなる。
「白井にも来てもらう。俺も立ち会うから、話してみろ。」
「えー! 怖い。」
「じゃないと解決しないだろ。」
確かに先生の言うとおりだ。
すこし迷って、条件を出す。
「絶対護ってくださいよ。」
「わかったわかった。」
2回言うなんて信じられない。
「なら、……ツノ。ツノに誓ってください。」
青鬼先生は青鬼だが、そう青くない。
パッと見、すごく不健康な青白いだけの人のように見える。
ただ額の真ん中に、刀の先っぽ約3センチくらいの形状で、皮膚の隆起があった。
「なんだよツノに誓うって。ツノに誓ったことなんて1回もないぞ。」
「じゃあ今日がハジメテですね。」
先生は強面のまましばらく考えて、やがて頷いた。
「よしわかった。ツノに誓って、俺はおまえを護る。」
ちょっと間を開けてから「なんだこれ」と先生が呟いたのをおれは聞いていなかった。
おれの注意は先生のツノにシフトしていたのだ。
「それってほんとにツノなんですか? 柔らかそう。」
皮膚っぽい。
皮膚病の一種とかって言われたら、それはそれで納得してしまうだろうってくらい皮膚っぽい。
あわよくば触りたい。
「いまは柔らかいよ。」
「硬くなるんですか?」
「あぁ。」
「なにそれちん」
「言うんじゃあない!」
青鬼先生が怒鳴っておれの声を掻き消す。
「おまえ反省文でも書かせてやろうか。」
「すみません放課後忙しくて早く帰りたい。」
とっさにタメ口になった。
でも大丈夫だろうと思う。
鬼だし強面だし口調もきつめだし厳しそうだけど、多分大丈夫。
普通に話せてるし、おれを結界から守ってくれて、これからも助けようとしてくれている。
先生はきっとまともな大人だ。
こんなことじゃ怒らないさ。
先生は呆れ顔で溜息をつくと、おれに向かって手をひらひらとした。
「もういいさっさと帰れ。また明日。」
「じゃあ、はい。失礼します。」
素早く手を伸ばしてツノをちょんと触り、走って逃げた。
背後から怒号が聞こえたが「先生また明日!」と叫んで掻き消して、帰った。
【次回予告】
下校の途中、スーパーに寄って幼馴染(属性:ツンデレ)に会う。
【参考】
小泉八雲「雪女」




