17.大親友と昼休みを過ごす 3/3
【前回までのあらすじ】
親友に状態異常(生霊)を相談し、話題が脱線したりする。
「仮に待ち伏せだったとして、理由は好意だろうか?」
「まー告白だろうね。」
おれは無造作にドヤった。
「君の返事は?」
「Oh, ……どうかな、そのとき告られた記憶も返事した記憶もない。から…」
「じゃあ告白されたらどうする? 君の気持ちは? その子のこと好きなの?」
「好き? やー好きとか……。うーん。好きなの?」
わからないので束本くんに訊いてみた。
「……知らない。」
「これって、好きって気持ちかな?」
「知らない。」
「今のところ不明。もしかしてだけど前世的なやつかも。宿縁? 的な?」
「だから知らない。」
感情の乗らない声で束本くんは言った。
恋バナにも浮つかない束本くん――、これには理由がある。
束本くんは将来、夢を叶えたついでに富と名声を得て背が伸びて筋肉ムキムキになり、もちろんモテモテだから調子に乗ってしばらくはだらしない生活をするのだが、やがて本当の愛を知って才色兼備の美人と結婚して添い遂げ結果的に歴史に名を遺す、らしい。だから恋愛事は未来の自分にまかせて、モテるはずがない今の自分は精々頑張るだけ。……とのこと。
尊敬が過ぎて友情が深まった。
でも今は束本くんがあまりに乗ってこないので、ほっぺを膨らませてわかりやすく不貞腐れてみせた。
「君の話を聞く限り、君が生霊になってから経験したことのなかで、狐の嫁入りの日だけはフラッシュバックのようだ。これは彼女が君に対してどうこう、というよりも、君が彼女に対して、なんらかの強い想い、あるいは衝撃的な記憶をもっているからじゃないかな? そう仮定して、それが君の恋心なら比較的穏便だけど、たとえば、……憎しみなら?」
束本くんが珍しく言い淀む。
「仮定ばかりでなんの論拠もないから、助けにはならないかも知れないけど……。長く話してごめん。続きを聞く?」
束本くんは時々こういうことを訊く。
話すことをためらいがちで、そもそも積極的に人に話しかけることはまずない。
中学生のころ、話しが長くて回りくどくて理屈っぽくてつまらないと、友達だと思っていた子に言われたからだそうだ。
「いいんだよ束本くん。聞きたい。」
「君が人から憎まれたり、恨みをかって、危害を加えられるというのは、君の人格からして考えにくい。だけどたとえば、人間が動物を食べるようなのと同じ、つまり自然な出来事だとしたら? 君は、人間の天敵から襲われたんじゃないだろうか?」
「人間の天敵? ……ワニとか?」
束本くんの瞳孔が開く。
想定外のことに頭を回すとき、ごくわずかな変化だがこういう顔になる。
そして疑念を噛み潰すようにゆっくりと発音した。
「ワニなら歯型が残ってると思う。」
「ア・そうよね。」
おれのこれまでの友達なら「んなわけねーだろバカだなゲラゲラ」くらいのところだが、束本くんはそういうのない。おれが真剣なときには真剣に、ふざけているときにも真剣に反応してくれる。だから束本くんは大親友なんだ。
「君が倒れた原因も目覚めない原因も、不明なのは、いまだ人知が及ばないモノに、君が襲われたからじゃないだろうか?」
“まだ人知が及ばないモノ”――
「妖怪?」
束本くんが頷く。
ハッとして、おれの頭の上に「!」が立つ。
「旧校舎!」
魔都高校の旧校舎には、クラスが3つだけある。
1年から3年までの、13組だ。
マトコウには、創立以来ずっと、どの学年にも、13組だけは絶対に存在する。
たとえ1組がなくても、13組だけはある。たとえ100組あっても、13組が特別クラスになる。
マトコウの13組――妖怪などの人外や異能力者の受け入れ、マトコウの百不思議の9割方が集結するこのクラスは、魔都の象徴にして怪異そのもの、魑魅魍魎の巣窟だ。
新校舎の1階にいなかったのにも納得がいく。
彼女が妖怪の類なら、13組にいるに違いないのだ。
【次回予告】
生霊になってしまった主人公に、大親友が思うこと。




