第十七話 それは顕現す。
----side:ヘルクレット
リルグレイシアとの繋がりはとても薄くなっている。
リビドスポア国での件は完全に途絶えしまっていたが、今回は途絶えてはいない。
つまりリルグレイシアは生きているし、意識を失っているだけだと思われる。(いやあのときも死んではいなかったが……)
あの時気を失ったリルグレイシアを受け止めようと動いたが、まるで何かに守られているかのようにリルグレイシアに近づけなかった。
リルグレイシアにようやく近づけるようになったのは空から降ってきた物が、リルグレイシアの中に入っていった後である。
我はそれの正体を探ったが、分からなかった。
しかし、そいつがリルグレイシアの負担にならないくらいに魔力吸っていてかつ、我らが回復魔法を使ったとしても、その魔力を吸っていることは分かった。
しかし、それの正体がわからない以上その場を見ていない者にそれを話しても無駄だと思い、話していない。
まぁ、魔力を吸っていることは当たり前だが分かった様だ。
とまぁそんなこんなしているうちに、アルフレクス等が来た。
案の定といえば口が悪いような気もするが、リルグレイシアのことが気が気でないようだ。
そんなことを思う我もリルグレイシアのことが、気になっているのだが。
だが、まだ取り乱すところではない。
もしかしたら、眠っていても、いつものように、また一歩強くなり、自分の力で目覚めて、自らに起こっている異変も、前世のニホンという世界での知識や経験で解決するかもしれない。
そして、いつものように、自分ではなく、周りの心配をするのであろう。
そんなことを思っていると、リルグレイシア目覚めた。
しかし、目覚めたリルグレイシアは、リルグレイシアであって、リルグレイシアではなかった。
----------------------------------------------------------------
----side:ショーンストレア
今は目的なんぞどうでもいい。
生き残らねば……
幸い、異形の姿となった同志達は追ってきていない。
そしてここは、誰にも知られていないものの、ハウロスジェーン王国の王都周辺。
私がかけた術で、私が同行していない場合、外に出る場合は屋敷前に、中に入る前は麓にそれぞれ戻される。
だから、異形の姿となった同志達は恐らく出てこれはしないし、外からも誰も入れないので、異形の姿となった同志達が私の術を破らない限り安心だ。
しかし、それは後ろから聞こえてくるドドドッという音で破られる。
止まり、振り向く。
そう、同志達が追いかけてきたのだ。
いや今更、同志達というのもおこがましい。
異物とでも呼んでおこうか。
別に、人間どもがこの異物に残虐されるのは構わないが、それで、私達。いや私の目的が、潰えるのであるなら、それだけは避けたい。
だったら、精一杯防がせてもらう。
人間どもの為、とならば腹立たしいが、自分のためとならば、なんだって利用させてもらおう。
先程から堪らえていたが、身体に違和感を覚えている。
恐らく、私も、異形の姿になるのであろう。
だったらそれも利用させてもらおう。
追いかけてきている異物は理性の欠片すらない。
つまり、変化の過程で理性が飛んでしまうのかもしれない。
だったら、耐えてみせよう。
姿形が異物となり得たとしても、理性を残していれさえすれば、利用できるのだから。
私は目的のためには手段を選ばない。
いや、選んでたまるものか。
定められた選択肢は無限大にあるというのに、これはしたくない、したい等と我儘を言い、選択肢を狭めてしまうくらいならば、自死を選ぶ。
そんな狭まった選択肢の目的なんぞ意味はない。
目的のために生きるのが、この私だからだ。
そう決意し、堪らえていたものを解放する。
するとすぐさま骨は砕け。肉体は波立つ。
激しい痛みで、理性が飛んでしまうような気がするが、目的に縋り痛みを亡くす。
しばらく経ち、完全に変貌した姿形のなか、ショーンストレアはただ、嗤っていた。
----------------------------------------------------------------
side:ヘルクレット
リルグレイシアであったものを、抱え、外へ飛び出し、精一杯上空へ投げ飛ばす。
怪我人をなんて扱いしているんだ!と叫ばれても、仕方ない。
もしかしたら、王都の人々を傷つけるかもしれないからだ。
しかし、それはリルグレイシアが望むところではない。
そう思った瞬間、リルグレイシアは輝き、魔力を解放させ、爆発する。
魔力爆発によって振動が空気を伝わり、我らのところも揺らす。
しかし、投げたおかげか、建物はガラスが割れただけで、崩れたところはない。
そのことに安堵し、空を見上げると、リルグレイシアは、五体満足といった様子になっていた。
顔は残念ながら見えないが。
しばらく見上げていると、リルグレイシアは口を開く。
しかし、その声は女性っぽくなっており、リルグレイシアだとは思わなかった。
「ふむ、成功……というわけですね」
その言葉の意味を図ろうとすると、リルグレイシアの姿をした何者かは高らかに嘲笑う。
「ワーハッハッハッハ。 ついに、現界できたわ!!ありがとう。愚かな者たち」
それを言い終えると、我らの方ではない、ある一点を見据える。
じっと見据え、しばらく経つと、「ふむ。 まだ生きていたんですね」と呟き、手をかざす。
いよいよ、佳境です。