第十九話 信頼するというコト
北の街、東の街、南東の街、南西の街、そして王都から伸びた光の柱はやがて、西の街からも伸びる。
そのうち王都を除く5本の光の柱達は繋がりだす。
北から南西へ。
南西から東へ。
東から西へ。
西から南東へ。
南東から北へ。
全て繋がり終えると、それぞれの光の柱から再び光が伸び、ハウロスジェーンと他国を繋ぐ国境線をなぞるように円を描く。
円を描いた光はやがて、王都から伸びる光の柱に向かう。
しかしそれを、リルグレイシアの皮を被った者が見逃さないはずがなく。
大きな力が流れている光から力を吸い取ろうとする。
その光に触れた途端、触れた表面が回復不能な焦げを作る。
ならば、光を塞いでしまおうと。
如何なる攻撃をも無効化する、物質を作り出し、光の伸びていく途中のところに設置する。
その光はそれを無視し、王都の光の柱へ伸びていく。
光は王都の光の柱で交わる。
完成された光の繋がりは、一種の魔法陣の様な見た目である。
光の繋がりは、王都の光の柱へと5方向の光の柱から全部の力を移動させる。
その力が王都の光の柱へと移動し終えると、そこから強烈に光り輝く。
その強烈に輝いた光は、ハウロスジェーンだけでなく、世界を包み込む。
それだけではなく、表世界と裏世界を隔てる境界線を破壊し、それを超え、光は元裏世界だったところをも包む。
裏世界では、表世界にあった属性魔法とそして、目の前に表示され始める自らのスキルと能力値など。
表世界では、裏世界にあった属性魔法と、紋章などが発現し始める。
同時に表世界で魔物と戦っていたものは、眩い光のさなか、バトルフィールドに包まれていたはずなのに、それがないことに気づく。
知られていなかった、要素が次々と元表裏世界で発現し始めているのに、人々は不調を訴えることもなく、平然としている。
それは、光のお陰であっただろうか。
実際、眩い光が放たれたはずなのに、誰一人として目の不調もない。
そのような光は、最後に包み込んだ地点からゆっくりと消え去っていく。
やがて、光り輝き始めた地点へともどり、光り輝き始めた地点の光も消え去ると、ハウロスジェーンに現れた光や光の柱も消え去る。
そうして、光が全て消え去った後、光り輝気始めた地点には、一人眼を閉じ、佇んでいた。
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何も見えない、暗闇の中、俺はただひたすらに
走る。
疾走る。
到着点が見えなくてもひたすらに
走る。
疾走る。
何もしていなかったら、このまま暗闇に溶け込んでしまいそうで恐ろしく、怖かった。
だからひたすらに
走り、疾走る。
一体どれくらいの時間続けていただろうか。
それとも、すでにくらやみにとけこんでいて、じかんかんかくもなく、えいえんとそれをつづけているのだろうか。
わからない。
わからない。
わからない。
しりたくもない。
かぞくも、ゆうじんも、なかまも、でんかも、からだをともにしたりゅうも、おうさまも、あのひとたちも、みんなみんな、たすけることができずにボクはここにきてしまった。
いますぐもどりたい。
そうねがうと、くらやみのなかにあわいひかりがあらわれる。
それにてをのばすと、ボクのなかにはいりこんでくる。
それはボクの記憶だった。
戻って、くいを消したい。
もうひとつ願うと、またひかりがくらやみのなかに現れる。
それにも手をのばすと、それもボクにはいり込んでくる。
それは俺のスキルだった。
悔いを消して、またみんなと笑い合いたい
更に願うと、またしても光が現れる。
それにも手を伸ば
さない。
せない。
自分のスキルで視えていた。
そして同時に、この暗闇から抜け出すためのスキルで必要としていることも気付いていた。
それても、伸ばすことはできない。
何故なら、みんな、俺のことを信用していても、心から信頼してくれてはいなかった。
そのことに、隠されていた情報を見たとき、気付いたからだ。
身体を共にした竜には信用も信頼もしていたが、友人にも、仲間にも、殿下にも信用はしていたが、信頼していなかったからだ。
それと同時に光から声が聞こえてくる。
「「「リルグレイシアは何故、こういうときに、俺(私)を頼ってくれなかったのだろう」」」
聞き覚えのある3人の声が聞こえてくる。
それを聞いて自分を悔いる。
信頼して、頼りにしたかったが、巻き込みたくないと思っていたのが仇になった……。
これではまるで、自分の過去と同じではないか。
俺は一体何回、過ちを繰り返すのだろう。
それなのに、続く言葉は、彼ら自身に対する私憤であった。
「「「リルグレイシアに、頼りにされるようにしていればよかった」」」
何故。
彼らは何も悪くないのに、自分を責める?
それほどまでに俺という存在は大きかったのだろうか?
(いや、それはない)
自嘲の笑みを溢す。
やはり、俺には彼らと笑い合う資格はない。
「いつも、ありがとう。じゃ、さよなら」
最後はほぼ心のなかで言い、そしてまた再び、暗闇の中に向けて走り出す。
しかし、光は俺の後を追い、自ら俺の中へと入ってくる。
「何故、それほどまでに……」
身体を共にした竜の声も聞こえてくる。
「信頼しているぞ、リルグレイシア」
それを聞くと、涙が溢れてくる。
「みんな、ありがとう……ありがとう……」
自分を求めてくれているのが嬉しくて。
「うん、分かった。今、行くよ」
そう言い、俺は、ビクトレアから貰ったスキル『信頼之源』を発動させる。