第十八話➁ 〜3人の後悔〜
----side:ヘルクレット
リルグレイシアの姿をした何者かは、手をかざし、一点に向け謎の光を指先から射出する。
その後興味を失ったかのように、周りを見始める。
その最中に、頭を抱える仕草をする。
瞬間、思わず飛び出していた。
いや、飛び出さざるおえなかった。というべきか。
それは、空に投げたあたりから今までのごく数分の間だけだが、途切れてしまっていた、リルグレイシアとの繋がりが再び感じられたからだ。
ルクレマス殿はもちろん、アルフレクスやフェルミステまで感じられていたのか、彼らも飛び出していた。
しかし、それを罠だと悟る。
繋がりが途切れてしまったからだ。
いや、それだけでは、リルグレイシアの残穢かなにかによって感じられたととれる。
だが、そのリルグレイシアの皮を被った者が途切れたと同時に、ニヤッと嘲笑った様に見えた。
それを認識した瞬間ピタッと止まり、それに続けてルクレマス殿たちも少し困惑したように止まる。
それは遅かった。
気付いてから止まるまでが遅かったのではなく、気付くのが遅かった。
そう。
アルフレクス達が一瞬で吹き飛ばされていた。
ルクレマスの魔法によって恐らく浮いていた彼らもまるで、それを解除されたかのように、何の空気抵抗もなく飛んでいくのが見える。
それは王都から見て、ピースコートを西と見たとき、フェルミステは北へ。ルクレマス殿は東へ。アルフレクスは南東へ。
一人になってしまったが、戦うしかない。
リルグレイシアを傷つけずに戦う方法は分からないし、一人では恐らくできない。
それでもなんとか一矢報いてやろうと思う。
そのまま、掴まれる寸前で距離を置くことに成功する。
攻撃してもすぐ避けられるようにしつつ、分析をする。
(どうやら、我が攻撃範囲に入らなければ、自ら動こうともせず、また、攻撃することもない。つまり、遠くから攻撃すればいいが、恐らくそれは効かないであろう。弱点は潰されていると考えたほうがいい。そして何より、リルグレイシアは適応しきれていなかったが、今は中身が違う。身体の性能はフルスペックで適応しきれていると考えると、我の攻撃は確実に無力だ。精神系の攻撃も、異状生命体で耐性がついている。打つ手無し。だが、こういうときほど、機会を狙え)
機会を狙う。そうは言っても、範囲に入ってしまえば我が気付かない内に攻撃される可能性がある。
だが、フェイクではない隙を見せるまで、耐え忍ぶ必要がある。
こっちもフェイクである隙を見せたいところだが、少しでも付け入る瞬間を与えると、こっちは簡単に沼に嵌ってしまうだろうから、見せれない。
これではジリ貧だ……。
どうすればいい。
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アルフレクスは過去を思い出していた。
出身が、ハウロスジェーンの中で一番治安が悪いと言われている、ダウンサイドと呼ばれる街というだけで、ゴミを扱うように接してくる人たち。
定期的にやってくる商人でさえ、雑に商品を扱い、まるで商売相手ではないと言われるかのように颯爽と去っていく。
そんな中で親が頑張って貯めてくれたお金でなんとか学院に入学した。
親のためにもここで頑張って行くために、苦楽を共にする友人を作ろうと積極的に話しかけに行ったが、ほとんど、俺の出身を聞くだけで蔑み、避けていく。
流石に教師たちはそんなことはしなかったが、心のうちでは同じことを思っている。
そう半ば諦めて話しかけていった。
しかし、あいつだけは違った。
とても強かったので俺も逃したくないと思ってしまった。
最初は黙ってようと思っていたが、筆記試験をやっていくなかで、騙しているわけでもないのに、罪悪感が湧いてしまい、結局、終わった後に正直に話してしまった。
これであいつも俺を……と思っていたが。
「治安が悪いってだけで、そんなことできるかよ?」
と言ってくれたのだ。
そうして、俺は彼のことを、信用し、信頼していたが、彼は信用こそしてくれるものの、信頼してくれることは、なかった。
同時刻、フェルミステやルクレマスもまた、彼について考えていた。
フェルミステは、アルフレクスと同じ様に自分がいつ捨てられるか。
確かにリルグレイシアは信用してフェルミステの弓攻撃を頼んでいたが、大事なところは全て自分でしていた。
また、ルクレマスも、何故神殺しの際は自分を頼ってくれなかったのだと思っていた。
彼女らにもまた、心から信用はしていても、信頼はしていなかったのだ。
そして、そのような三人に共通するのは。
「あぁ、こんなことになるなら、リルグレイシアに頼りにされるように接していれば」