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Xmate -クロスメイト-  作者: 紅弥生 
最終章 滅びか、創造か。
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第十八話① 一人の男の後悔

----side:ショーンストレア


「ククククククッ。クハハッ。ハハハハハハハハハハッ!!!! 耐えたぞ。耐えきってやったぞ」


 ただ高らかに嗤い、そう言う。

 変化の余韻でまだミシミシ言う身体のことは一旦忘れ、どうやって目の前の二体を倒すか思考する。

 しかし、余韻のせいなのか、はたまた異物の身になった影響なのか、うまく思考がまとまらない。

 それならば、力の限り尽くせばいい。

 ただ力を本能のまま振るうのでなく、人間に与えられた知恵と知識を利用し、振るえばいい。

 忌々しいが、姿形が変わろうとも、私の意識を形成しているのは、人間に起因するものなのだから。

 さて、試合開始だ。

 スキルを……

 いや、スキルは裏切りの女神に献上していた。

 その対価として得た力も今は使えない。

 魔法も練ろうとも練ろうとも分散してしまい、使えない。

 つまりは、肉弾戦しかないというわけだ。

 幸い私は目の前の2体の異物のように完全に人間から離れた姿形をしていない。むしろ、人間に近い。

 ならば、感覚が未だ慣れないが、この身体を上手く使えばいい。

 魔法まで使えないのは想定外だが、大筋は変わっていない。

 ならいくらでも変更の仕方がある。

 そう思い、戦闘を始める。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらく経ち、森の中で佇んでいたのはショーンストレアであった。

 しかし、彼は余裕のあった数分いや数時間よりも肩で息をして、姿形の変わった全身から血を流し所々青痣ができて、今にも死にそうな様子だ。

 それでもショーンストレアは予定通りと言いたげに嗤う。


「クククッ。クハッ。ハハハハッ」


 高らかに嗤い、そして呟く。


「些か想定外があったがこれで、私の目的を邪魔するやつはいない では、治癒したらッ……!!」


 しかしその呟きは途切れる。

 そしてショーンストレアは自らが殺した、同志たちの亡き骸の血溜まりに倒れる。

 幸いというべきか、はたまた、最悪というべきか、ショーンストレアを突如貫いた光は、一撃で死に至らしめなかった。


「かっばっ……」


 ショーンストレアがなんとか息を吸おうとするが、血溜まりに倒れた影響で血が入ってきて呼吸が上手くできない。

 そうした中でショーンストレアは考えていた。


(私はまだ目的を果たしていない。それなのに死んでたまるか……!!動け、身体。空気を、吸え。起きろ、俺)


 血溜まりの中で死ぬまいともがく。

 血で手脚が滑り、立ち上がろうとも立ち上がろうとも、また血溜まりの中に突っ伏してしまう。

 そんなもがいてる中でショーンストレアは幻覚を見る。

 それは、今はなき、母親の姿だ。


「おかぁ……さま……?」


 それを見てショーンストレアは動きを止める。


(いや、幻覚だ。生きているはずがない。嫌な幻想はやめろ)


 しかし、すぐさま頭を振り、二人立とうと動き始める。


(私は目的のために生きなければならない。そのために、実の親を手にかけたではないか。そうだ私は、俺は……)


 ようやく立ち上がれ、のしっのしっと身体を横に振りながらゆっくり歩む。

 しかし、目が見えていないのか、はたまた見えていて、無意識に向かっているのか、彼は山を下るのではなく、登っていく。


(私は、自分の目的のために産んで、女手一つで育ててくれた実の母親を手にかけた。だから、私は生きて、生き延びて完遂させねばなるまい。それが、母親にできる、償いだろう。だから私は目的を、俺は、目的を。いや……私の目的とはなんだったかな……)


 山の森の途中にある、開けた場所に出る。

 そして、ショーンストレアは仰向けに倒れる。

 空をボーッと眺めながら、深呼吸をする。

 なんとか呼吸をすることによって心臓が動くのをやめないのだろう。

 現に、左胸の心臓の部分を丁度貫かれたショーンストレアは未だ生きている。


(私の目的は、人間を絶望の底に打ち入れ、魔物たちを頂点にする……こと。だから、私は自分の母親を……!)


 空に再び母親の姿を見る。


(いや違う……!!)


 空の青さをそこで初めて認識する。


「私は、俺は、自分の母親を手にかけてなぞいなかった」


 呟かれた言葉は先程まで考えていたこととは正反対のことであった。

 今度は口を噤み、再び思考を再開する。


(そうだ、俺は、母親を殺された。俺の本来の目的は母親を殺したものに報復すること……!それを、ジュグメアとか言う神に漬け込まれ、人への憎しみに変わり、更にそれをハリストロスという神に利用された……!!)


 もうそこまでの力は残っていないはずのショーンストレアは地を思いきし叩く。


(なんて俺は愚かなことをっ……!!何が、自分の目的のためなら、なんでも利用する。だ!!クソっ……!!俺はこの手で、あの青年を……あの青年の未来をっ……!!)


 ショーンストレアの顔を一粒の滴が伝う。

 その滴は日の光に照らされ輝きながら地に落ち、吸収されていく。


(今叶うなら、あの青年の前に跪き、額から血が出るほど赦しを請いたい……!!しかし……あの青年の未来を取り上げてしまった俺には、その資格がない……!!)


 思い出した余韻で興奮したのか、呼吸が早くなる。

 普通なら、脈も速くなるが、貫かれた心臓では逆に、呼吸を覚束なくさせる。


(ハハッ、もとより赦しを請うなんてこと、許されてなかっ……たか)


 血をごボっと吐き出す。


(自分からこうなるよう仕向けといて愚かな話だが、彼はいつも突拍子もなく私たち、いや人類滅亡組織ヒューマン・エクスティンクションの計画をことごとく潰していった。だから、今回も突拍子もないことで潰してくれる……。そう信じると……しよう)


 そしてショーンストレアはゆっくり瞼を閉じる。


「我が人生悔いに満ちている。叶わない願いだろうが、来世では彼に私よりも、幸せに生きて……欲しい……な……」


 そうして、一人の人間は安らかに眠りつく。

 そうした、一人の人間から暖かい気配が表れ、王都(中心)からみて()西()()()に向かっていく。

遅れてすみません

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逆境の騎士〜誰にもない属性魔法と特性でピンチをチャンスに〜
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