人間図書館
私はどうも最近ついてない。
昔からついてないのだが、ここ最近特にひどくなった気がする。
お金を落としたり、泥棒に入られたり、ひったくりにあったり。
車にひかれそうになったり。
やたらと連発している。
なんか、近々事故で死にそうな予感さえある。
そんなある日、私はある図書館の前に居た。
その図書館は暗い雰囲気に包まれていて。
陰気な司書が一人居るだけだった。
本棚に目をやるとそこには分類分けなどされていない大量の本が並んでいた。
その本にはタイトルは書かれておらず。
背表紙に名前が書かれているだけで。
それらの本はあいうえお順に並んでいた。
その作家の全集かな?
そう思った私は一冊の本を手にする。
するとそこに書かれていたのはその作家の作品などでは無かった。
その名前の人物の生まれと最期までがこと細かに書かれており。
この人物は作家でもなかった。
これは何かの冗談?
私は思わず、数ある本の中から私の名を探した。
すると私の名の本はあった。
同姓同名の本も何冊かはあったが、1ページ目を見れば一目瞭然だった。
まさかと思いつつも読み進めていくと。
物心ついてからの事は全て心当たりがあったし、それ以前の事も克明に書かれており。
物心つく以前の事は親から聞いた事と概ねあっている。
信じがたいことだが、ただのいたずらではないことは明白だった。
そして今日のページを捲るとここに入ったことやここの存在を知ったことは書かれていないことに気づく。
やはり、ここの存在は特別なのだろう。
そしてそこから数ページ読み進めると私の人生は終わっていた。
事故であっけなく死んでいたのだ。
たまらず私はその本を手にし、司書の所に向かった。
司書の所へ駆け寄る。
「私はもうすぐ死ぬんですか?」
私はその本を手渡し、その司書にこう尋ねた。
「そうですね、そうなっております!」
「なんとかなりませんか?」
「そうですね、本来は禁止されているんですが!」
「確かにあなたは今までろくな目に会っていませんね!」
「特別ですよ!」
そう言うと司書は一冊の本を取り出した。
「今日までの人生をこの新しい本に書き写しなさい!」
「それ以降の白紙部分には好きな未来を書いてかまいません!」
そう言うとその男はペンとインクを渡してくれた。
漫画家がよく使うような毎回ペンにインクを付けないといけないアレだ。
インクは二種類あり、黒で書いて白で修正という事だった。
私はこの時代に手書きでこの膨大な量を書くのかと思いはしたが。
無論自分の命の為なので迷いはしなかった。
そして何十時間もかかりやっと今日までの分は全て書き写せた。
これで私は助かる。
いや、それどころか自分の好きなように人生を書けるとなれば。
もうそれは、人生バラ色以外の何物でも無かった。
そう思った私は人生で初めての大笑いをした。
「ハハハッ!」
「いたたた、ハハハッ!」
笑いなれていない私はすぐにお腹が痛くなり、身を捩った。
するとその拍子に白いインクをこかしてしまった。
インクツボからこぼれたインクは傍にあった私の本をたちまち白く染め。
こけたインクツボからは止まることなくインクが出続けていた。
そしてそれ以降そのついてない男の姿は跡形もなく消滅した。
司書はインクを拾い蓋を締めると掃除を始めた。
「やれやれ、せっかくチャンスを与えたのに!」
「せめて新しい方の本にこぼしたのならやり直しも出来たものを!」
「やはり、ついてない人は最期までついてないんですねえ!」
新しい本の背表紙にはまだ彼の名前は入ってなかった。