ロリコンを否定する頭が高い世界よ、JSより低く跪け
――ロリコンについてどう思う?
「私と結婚して頂けないかしら?」
「お断りします」
平成最後の4月27日、土曜日。
ショッピングモール内のゲームコーナー。
バイト上がりの俺は、客の一人であるナコちゃんから『また』求婚された。
「これで13回目……もう十分ね」
「十分というか異常です……毎月求婚とか何考えてるんですか?」
「あら……ならば24歳であるこの私に鞍替えしないあなたは正常なのかしら?」
輝く美肌とぱっちり二重。腰まで伸びる直毛は艶やかな黒。
着ている黒い服はまさかの着物。一言で言えば和風美人。
しかし身長は140センチ程度で寸胴体型の童顔。
1年前から求婚されているが、ちゃん付けを強制された『ナコ』という呼び名と、4歳年上だという情報以外は何一つ教えてくれない。
そんな秘密のナコちゃんを、見る人が見ればこう表現するだろう。
――合法ロリと。
「魅力的だとは思いますよ?」
「知っているわ……路里近衛くん」
「違います、近衛路里です」
再度問おう――ロリコンについてどう思う?
キモオタ、拗らせ童貞、変態、異常性癖、小児性愛者、性嗜好障害。
――性犯罪者予備軍?
「私はロリに入らなくて?」
「見た目は入るかと」
「ならどうして合法を選ばないの?」
「俺はロリじゃなくて、あの子が好きなんです」
「若年出産させるつもり?」
「させません。性欲だけのロリコンと一緒にしないでください」
「親御さんの気持ちを考えた事はある?」
「許可を貰うのが大前提です」
「いずれは歳を取るわよ?」
「俺は死ぬまで愛せます」
「ふふっ……わかりました」
「何がですか?」
「私は折れるからお行きなさい。待たせているのでしょう?」
「え? あ、はい……じゃあ失礼します」
「えぇ、またね?」
ロリコンを偏見なく肯定出来るのはロリコンだけだろう。
世界はロリコンに疑念の目を向け、蔑み、愚弄し、嫌悪し、否定する。
しかし近衛路里は世界に問おう。
――ロリコンを否定する理由は何だ?
「あ、みちさと!」
「おう、先月ぶりだな」
「うん! その……あ、あ」
「会いたかったぞ、桜花」
「はぅぁ――!? ぅ、うん。わたしも……なの」
ゲームコーナーの入口にいたのは一人の少女。
俺の胸の下辺りまでしかない華奢で小さな身体。その頭から垂れるのは、左右対称の黒く長いツインテール。
猫目でやや強気に見えるが、頬を染めたそれは子供の顔。
そんな可愛らしい顔が、上目遣いと共に唇を尖らせる。
「むぅ……わたしから言いたかったのにぃ……」
「10歳児にはまだ早いな」
「もう! 子供扱いきらいっ! 桜花はもう大人だもんっ!」
「素が出てるぞ? あとムキになるのも未熟な証拠だ」
「ぅ……わ、わたしは大人よ? ほら、この服だって……ね?」
大和桜花、小学4年生になったばかりの10歳。
その服装は桜も散り気温も上がってきたというのに、黒一色の長袖ロング丈フリルワンピース。よく見れば靴下と靴も全てが黒。
前髪にある桜型のヘアピンだけは色が違うが、これは特別なので除外すると……なるほど、今月はそういう意図か。
「ナコちゃんみたいな女を目指すって言ってたよな?」
「うん! わたしはやまとなでしこを目指すのよ!」
「ならその服は違うな」
「大人っぽくない?」
「黒を着ればいいわけじゃない」
「うぅ……だめ?」
やまとなでしこではないし、大人っぽくもない……が、駄目じゃない。
俺を殺す気かよ……今月も可愛すぎるぞ桜花ぁ!
「いや……可愛い。黒も似合うな」
「か、かわっ……ぅぅ、はじゅかしぃ」
「出会ってからもう3年だぞ? まだ照れるのか?」
「乙女はずっと純情なのぉ……あ、それよりみちさと! 今日は重大発表があるの!」
「なんだ?」
「聞いて! 先週、ついにお赤飯が出たわ!」
今どき時代錯誤な感は否めないが、そこは家庭の方針なので目を瞑ろう。
それよりも重要なのは……。
「思ってたより早かったな」
「ぅん……びっくりした。でもこれで」
さぁ、今再び問おう。
待たせたな世界よ。
――ロリコンを否定する理由は何だ?
「これで桜花は女になった」
「うん。わたしはもう大人の女よ」
ロリコンを否定するのは、未成熟な女児を好む異常者だから?
ならば問おう。
主観を排し生物学的に捉えて、繁殖可能となった雌雄の恋は異常か?
人間には理性がある、一緒にするなと言うかもしれない。
しかし理性とは何だ?
歴史の中で改変され、世論に矯正された理性に意味があるのか?
例えば児童ポルノ禁止法。
これが施行された1999年より前には、女児の裸体を掲載した写真集が存在した。
では当時の人間には理性が無かったのか?
いや、当時の人間にも理性はあった。
理性とは時代と共に変化する、形無き法もどき。
そんなもので生物学的観点を否定するのは、それこそ理性的とは言い難い。
「桜花に告白されてから2年。気持ちはどうだ?」
「いっしょ! みちさとが、だ……大好きっ!」
ロリコンを否定するのは、判断力と意思決定力に乏しい女児に手を出すから?
性に対して無知な女児に手を出すから?
ロリコンは当然のように、《手を出す》前提で否定される。
しかしそれは真に否定すべき異常者が刻んだ負の印象。
だからまずは観よ。
俺と付き合いたい一心から、大和桜花が2年間で自得した意志を。
「俺は今20歳。桜花とは10歳も離れてる」
「10年後は30歳と20歳。その時はいいのに、どうして今はだめなの?」
「犯罪になるからだ」
「ちがうでしょ? 犯罪なのはえっちなことをした時だけ。わたしとみちさとがぷらとにっくな恋愛をすればいいのよ」
「プラトニックの意味は?」
「みちさとに言わされたみたいになるとだめだから隠すけど……えっちなことを求めない清く正しい関係のこと」
そう。
桜花は同時に性に関する知識も勝手に身に付けてきたらしいが、これが正答だ。
日本の法では性的同意年齢――13歳未満の相手に対し性的な行為をすれば、互いの同意の有無に関わらず罪となる。
同時に地域で定められた青少年保護育成条例等により、13歳以上でも同様に罪となる場合がある。
さぁ――これらを自ら学び、更に2年も一途に想い続けた桜花を、判断力と意思決定力に乏しいと言い切れるか?
そしてロリコンを否定する者達よ、知っていたか?
性的行為の無い純粋な交際には罪が無いのだと。
無論これらは中高生同士などでは隠れて破られている。
しかし俺達は決して破らない。
残る最大の問題も乗り越えて、清く正しく突き進む。
故に聴け、世界よ。
――そして道を開けろ。
「俺は桜花が18歳になるまで手を出さない」
「わたしは18歳になるまでみちさとに求めない」
ロリコンを否定する世界よ。
あとは何が必要だ?
生理的に無理?
そうか。なら放っておいてくれ。
女に相手にされない童貞が女児に関心を向けた?
一緒にするな。俺は高三で同級生を相手に合法で卒業している。
法の問題は解消されている。
子供染みた精神論を相手にする気は無い。
よって残るは一つ。
「じゃあ、桜花のご両親に挨拶に行こう」
「うん、すぐそこよ」
精神がどうあれ桜花が10歳である事は変わらない。だから保護者の同意は必要不可欠。
親次第でデートも誘拐になり罪に問われるし、何よりこれは礼節の問題だ。
しかしその前に……
――実は先に惚れていた俺から、改めて言い直そう。
「桜花」
「なーに?」
「ずっと好きだった。俺と付き合ってくれ」
「は、はい! よろしく……お願いしましゅ」
世界よ、他に何かあるか?
俺達を縛り否定する、法は、武装は、鎖はあるか?
あるならば来い。俺達は正道で越えて行く。
だから、全てを乗り越えたその暁には……。
――ロリコンを否定する頭が高い世界よ、JSより低く跪け。
俺と桜花のこの恋路――否定したければ挑んでこい!
「君、ちょっといいかな?」
「はい? なん、で……しょぅ」
俺に声をかけてきた一人の男――を見た瞬間に喉が締まった。
紺色帽子に紺の服。法と権力の使い手。
平和を護る正義の使者――――O・MA・WA・RI・SAN!
「君達どういう関係? この子は妹さん?」
挑むの早すぎない!? まだご両親に話してないのにぃ!
待て、せめてあと1日待ってくれ!
わ、わかるよな桜花……今だけは。
「ちがうもんっ! 桜花はみちさとの女なの!」
――桜花ぁぁぁぁぁぁ!!
「話……聞かせてもらえるかな?」
あ……終わった。
短い交際だったなぁ……。
元気でな桜花……1分間の恋人関係、幸せだった……。
「――その必要はありません」
諦めかけた俺と詰め寄る警官。
その間に割って入った一つの人影。
「……え?」
黒い着物に黒い髪の和風美人。
24歳の合法ロリ……ナコちゃん?
「我が娘に対する貴殿の心――この大和撫子がしかと拝見しました」
――は?
今……なんて言った?
「故に、近衛路里と大和桜花――」
おい……おいおい嘘だろ!?
「我が家での同棲を条件に――二人の真剣交際を認めます!!」