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刀弥の誕生日 1

 四月五日が刀弥君の誕生日。

 中学以降は毎年クラス替えがあるので、誕生日を友達に祝ってもらう習慣が無いそうだ。そんなだからか、お祖父さんたちを交えて家族で祝うそうだ。

「奈緒ちゃんは、刀弥君へのプレゼント決まったのかな」

「真理奈さんからはバレンタインの時に言われた『リボンを付けて』の件をまた言われたんですが、刀弥君を試すと言うか焦らすと言うか、なにか違うよなって思っていて。やっぱり実用品にしようかと思っています」

「なら、お義父様のアイデアに乗ってみてもいいかも。これから話を聞きに行けないかな」

「はい、良いですよ」


 行くと言っても敷地は次続きで、庭を挟んだ隣りなのだから直ぐに着く。

 会長職なので出社することもあるとは言うけれど、その頻度は頻繁では無く、夕方から出かける事が多いので日中は家に居ることが多いそうだ。

 突然の来訪にも嫌な顔もせず、応接室に招き入れてくれて自らお茶菓子を用意してくれて、夫婦並んで私たちの前に座る。

「お義父様がご提案下さった件でお伺いしました。奈緒ちゃんにも話してあげて頂きたいのですが」

「うむ。奈緒さんを縛るつもりは無いのだが、先だっては学校に呼び出されたのも聞いていて思ったわけだ。奈緒さんが刀弥の婚約者になれば立場もハッキリするし、要らぬ誹りを受けずに済むのではないかと。もちろん、嫌になったらいつでも破棄してもらって構わない」


 気持ちも思いの丈も確認し合えた今では、その提案は私にとっとは嬉しい限りなのだが、刀弥君は承諾している事なのだろうか。

「えっと、そう言って頂けるのは大変うれしいのですが、刀弥君には了承をもらっている話なのでしょうか」

「いや。話したらサプライズにならんだろ」

「お正月に顔合わせをしてもらったし、あの時に比べて随分と明るくもなったものね。耕介だって美羽さんだって反対ではないのでしょ」

「反対なら同居なんて認めないですよ。あの子の初めての我儘なんですから、叶えてやりたいと思います。とは言っても無理じいはしたくないので、奈緒ちゃん次第ですけれど」

 そう美羽さんに言われ、提案してくれた里親でもある会長夫妻の微笑みを見てしまえば、自分に正直になろうと思っても良い気がしてくる。


 どう答えるのが正しいだろうと言葉を選び、誤解を与えない様にハッキリと口にする。

「私は刀弥君に心も命も救われました。そして、自信と勇気を与えてもらいました。だから片思いで終わらすはずだった気持ちを、終わらせる必要はないのだと思えるようになったのです。私は彼のそばにずっと居たい。でひ、そのお話を受けさせてください」

「孫を、よろしくお願いしますね」

「ありがとうね、奈緒ちゃん」

 そうして当日の準備などの話を進めていくけど、どうしても刀弥君の反応が想像できなかった。


 誕生日を迎えて、刀弥君は一足先に十八歳になった。

 誕生日会は会長宅で昼に行うことになっていて、何故だか刀弥君は朝からソワソワしていた。

「真理奈さん。刀弥君って毎年あんな感じなんですか?」

「いつもは普段通りだよ。今年は奈緒ちゃんからプレゼントを貰えると思っているんじゃないかな」

「プレゼントの件は、なにも言われませんでしたよ」

「黙っていても貰えると思ってるんだよ、きっと」

「それじゃ、がっかりするかもですね」

 そう、私はプレゼントを用意していない。更には、他の誰からも直接的なプレゼントは無いと言える。形としてあるのは、耕介さんが用意した誓約書のみ。


 女性陣は、用意があるからと午前中から隣へ出向いていて、美羽さんを筆頭に準備が進んでいく。

 そんな中、私だけは奥に連れて行かれて飾り付けられることになった。

 最初は断ったのにこんな事になってしまったのだけは刀弥君に申し訳ないと思っている。

 全ての準備ができて真理奈さんが男性陣を呼びに行き、隣の部屋に控える私を除くみんなが席に着いた所で、耕介さんが口を開いた。

「刀弥、十八歳の誕生日おめでとう。誰の誕生日プレゼントから貰いたいかな」

「いや、え? 奈緒はどこ行ったの? てか、奈緒から最初にもらいたいんだけど」

「うーん、残念なお報せがあります。奈緒ちゃんはプレゼントを用意していません。お母さんや私が要らないって言ったのもあってね」

「どう言うこと? それより、奈緒を呼んであげてよ。じゃないと帰るよ」

 口調がかなり強くなっているので、機嫌が悪くなっているみたいだ。早く出て行きたいのに、呼ばれなくてオロオロしてしまう。


「じゃ、登場してもらいましょうか。奈緒ちゃん、入ってきていいわよ」

 スッと障子をあけられて、刀弥君の正面に立つと彼は目を見張っていた。

 場違いなほど着飾っているので、少し呆れられたかもしれない。

「刀弥君。あの、似合わないかな」

「似合っている。可愛いけど……。え? なにがなんだか解んないんだけど」

 愉快そうに笑いだしたみんなを制して、美羽さんが目録を読み上げる。

「私からのプレゼントは奈緒ちゃんが着ているお洋服。真理ちゃんからは奈緒ちゃんの耳に光るイヤリング。お義母様からは奈緒ちゃんの手にあるバッグです。気に入って貰えたかな」

 自分の誕生日のプレゼントなのに、自分の彼女が身に付ける物だったものだから、刀弥君は口を開けたままで絶句している。


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