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「刀弥君、真理ちゃん、どういう事なの!」

 家に帰り着くと、リビングにいた二人に美羽さんが詰め寄る。当然それだけではなんの事だか判らない二人は、眉をしかめて私に目を向けた。

「あの、知っているものだと思って言ってしまったんです。刀弥君が修学旅行に行っていない事を」

「え! なんで知ってるの? 父さんにしか相談していないのに」

「あれ? 私、真理奈さんから聞いたんだけど……」

 真理奈さんは話の途中から席を立って、逃げ出すようにリビングを出ようとしたけど、二人に止められてソファーに連れ戻される。

「父さんが話すとも思えないんだけど、姉貴はなんで知っているんだよ」

「えっと、聞こえていたから?」

「僕の部屋で話していたんだから、聞こえるわけないじゃないか」

「あ! もしかして」

 気付いてしまったのは、刀弥君の部屋にも盗聴器が仕掛けられていた事で、それを知られるのは気まずいだろう。でもプライバシーの問題だから、言わないわけにはいかない。


「盗み聞きしていたんですね」

「そう。刀弥に頼まれて盗聴器を用意したじゃない。ついでにリビングと二人の部屋にも付けてあるのよ……」

「ちょっと待って。なんで刀弥君が盗聴器なんて必要とするの?」

 刀弥君は目が酷く泳いでいて、真理奈さんは居た堪れないとでもいう様に上目使いでいる。かなり複雑な話になりそうなので、私から知る全てを語った方が良いように思った。

「あのですね。刀弥君は私が自殺とかしないか心配で、小西さんに依頼して私の家に盗聴器を仕掛けたそうです。修学旅行の時も、それで生きているか確認していたんじゃないかと。真理奈さんも私の事が心配で、刀弥君の部屋にも仕掛けたんじゃないかと思います。美羽さんがしていた事と変わらないですから、あまり怒らないで上げてください」

 そう、三人共に盗聴と言う行為に手を染めていて、耕介さんは黙認または手助けをした立場なのだ。そして私の家から回収した盗聴器は、たぶん私の部屋に置かれているはず。


「私は奈緒ちゃんに受信機を渡したからね。あなた達もここに持ってきて渡しなさい」

「あ、刀弥君は私の部屋には入らないでくださいね。真理奈さんは三個で刀弥君は一個だけですよね」

「えぇ、そう。今取って来るね」

「ごめん。僕のは奈緒の部屋にある」

「うん、知ってる。今思えば、布団に潜って泣いていた時でさえ来てくれていたのは、泣き声を聞いていたからなんだよね。それでずいぶん助けられたから許すよ。後で外すから場所だけ教えて」

 そうは言ったものの外すつもりも今は無くて、呼び出すのに使おうと思っている。

 どうしても寂しい時は今も結構あって、そっと来てもらってハグをして安心を与えて欲しい。

 それ以上は許していないので、彼にとっては物足らなさも当然あるのは承知している。それでも、今はまだお互いに踏み出す覚悟は持っていないので、我慢してもらおうと思う。


「なんで僕の部屋にまで仕掛けたの。信じらんないよ」

「あんたが連れ込んだ時に止めるためよ。別に四六時中聞いていた訳ではないからね。奈緒ちゃんの名前を呼びながら独りで、なんてのが聞こえたら家に居られないじゃない」

「しないから! そんな事、した事ないから!」

 戻って来たな真理奈さんに文句をつけたのに、呆気なく返り討ちにあっていて、美羽さんに話を戻された。

「で、修学旅行は行っていないのね。いったいどこに泊まっていたの」

「父さんに頼んで、近くのビジネスホテルに部屋を取ってもらった。祖父ちゃんの所だと鉢合わせるかもしれないし、直ぐ行ける所の方が良いだろうって父さんが言ってくれたから」

「お土産はどうしたの。お菓子とか買ってきていたじゃない」

「『小西さんにお願いして、東京駅で適当に買ってきてもらう』って父さんが言ってたから、そうなったんじゃないかな」

 なんだか社長秘書って大変な仕事なんだなって、漠然と思ってしまった。刀弥君を支えられればなんて考えて、次期社長の秘書ってアリなのかもと思っていたけど、私には出来そうもない。


「刀弥君の何がそこまでさせるの」

 美羽さんが困った顔で尋ねる。真理奈さんも聞きたそうにしているし、私もすごく知りたい。

「なにって、好きな気持ち? 奈緒を失いたくないし、悲しませたくないから」

「だって、会ったのは四年前の一度きりなんでしょ」

「高校に入る前はね。あの時に自分を責めて流していた涙が忘れられなくて、高校に入っても不幸を呼ぶ女だなんて言われていて、どうしてもそれを覆してあげたかった。どれもがただの偶然で、背負い込む必要なんてないんだって気付いてほしかったし、両親の事故までも自分のせいだと悲観しないで欲しかった。だから……」

 だから、嘘もついたしストーカー紛いの事もしたと言いたかったのかもしれない。

 そして私は助けてもらった。命だけでなく心までも。

「ありがとう。私は今こうして生きて隣に居られて、みんなに囲まれて幸せを感じられている。刀弥君たちのした事は褒められるものではないけれど、そうしてくれたから今が在るのだか本当にありがとうございました」


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