懺悔 2
「刀弥君は、いつからストーカーしていたの?」
「ま、そうなるよね。実は四年前からって言ったらどうする」
「そんな嘘は信じないよ。私たちが出会ったのは二年に上がってクラスが一緒になってからだもの」
もっとも、小さな頃からある意味有名だったから、同じ学校になった一年の頃だと言われたら信じたかもしれない。
「この家も裏のマンションも建つ前、社員と家族を集めて懇親パーティーをした事があった。君はお父さんと来ていて、途中で降り出した雨を自分のせいだと言って泣き出したのを忘れてしまったかな。僕はあの日の君に惹かれて、泣かないでいて欲しいと、笑っていて欲しいと思ったんだ」
場所は覚えていなかったけれど、確かにそんな事があった。
大きなテントを幾つも建てていたので中止になる事はなかったけれど、楽しみにしていたイベントが台無しにしてしまった。中学に上がっていたにもかかわらず、自分が来たからだと泣いてしまった恥ずかしい思い出。
「あの時、刀弥君もいたの?」
「姉貴も杏実も一緒にいた。泣いてしまった君の所にジュースを持って行ったのが杏実だよ」
小学校の低学年くらいの女の子が、「泣かないで、雨が降らないとお花は枯れちゃうんだよ」ってジュースを持ってきてくれて驚かされたのだ。
「だから僕は父さん経由で、君が受験する学校を聞きだして同じ学校を受けた。君のお父さんも知っている話だし、それと転勤は関係ないからね。だから事故の場所も知る事ができた。それで父さんは君が住むことに、最初は反対したんだ」
返答に困る私に、苦笑いで答えて話を進めてくる。
「反対した理由は僕にあるからね。弱っている君に付け入るのは良くないとたしなめられた。でも君を迎えに来た時、その憔悴振りに支えてやれと応援してくれた」
「なんで私にキスしたの? 私を好きだったから?」
「そう、ずっと好きだよ。好きな気持ちを抑えきれないほどに。卑怯者と蔑まされても、君のそばにいたかった。ごめんね。謝って済むことじゃないけど、君の気持ちを踏みにじった」
頭を下げる刀弥君をしばらく黙って見ていて、どう声を掛けるのが良いのだろうかと悩んでみたけど、シックリくるものが思い付かない。
ならば、この言葉が良いだろう。
「刀弥君。私を食べてしまって、いいよ」
「いやだから、僕は妖怪でも悪魔でもな……」
不機嫌そうに顔をあげた彼は言葉を止める。私の真っ赤な顔を見たからだと思うけど、ここまで来たら止めてあげない。
「大好きな刀弥君になら、食べられたって構わない。それで、いつ食べてくれるの?」
その秘めた意味は正確に刀弥君へと伝わったようで、真面目な表情だけど不安そうな目で口を開く。
「卒業まではお預けと、両親からきつく念を押されていて……。奈緒はそれでも良い?」
「刀弥君は待てますかって言うのは失礼だね。えっと、浮気は認めません。キスは今まで通りしてください。嫌いになったら振ってください。私が振るかもしれませんが、その時は許してください。私の事を大切にしてください」
「はい、誓います」
「だそうです」
「だそうです?」
「男に二言は無いのよね? 刀弥君」
「母さん! え、いつから?」
裏から出て行ったはずの美羽さんが廊下から現れて、刀弥君の顔が青ざめる。
実は先に帰ってきていた真理奈さんが、美羽さんの身代わりとして裏から出て行って、美羽さんは裏口の所で立ち聞きしていた。
「最初からよ。いくら好きだからって、ストーカーして、連れ込んで、住まわせて、キスしまくりな息子を信用する親がどこにいると言うの!」
「いや、私が話したわけじゃなくって。すでに知っていて」
じろっと見てくる刀弥君にそう弁明して、そう言えばいつから知っているのだろうと不思議に思って美羽さんを見ると、すまなそうな顔で手を合わせてきた。
「実はね。杏実の容態が分る様にと、ベッドにマイクが付けてあったの。奈緒ちゃんが溜め込んでいないか知る必要があると思って、電池を入替えて受信機を持ち歩いていて。もちろん、イヤホンで聞いていたから知っているのは私だけよ。あんな声を聞かされたのが真理ちゃんだったら、直ぐに飛んで行って半殺しよ」
「あ、あの、全て聞かれていたんですか?」
「初めの頃、泣き疲れて寝入るまで刀弥君が一緒にいた事も知っているわ。その時の恥ずかしいセルフもバッチリ。あ、最近のは聞いてないわよ。その、激しすぎて……」
(恥ずかしい! どんな羞恥プレーなの!)
刀弥君を見れば、青い顔のままで虚ろな目をしている。しばらくは使い物になりそうもないので、私の方からお願いするしかないようだ。
「あの、美羽さん。そのマイクの電池、今すぐ抜いてください。その、恥ずかしいので。ダメだと言うのなら、刀弥君の部屋に行きますよ」
住み始めからのルールで、私は刀弥君の部屋には入らないことと、二人きりの時は扉の鍵は閉めないことが決められていた。刀弥君が私の部屋に来る事はあるけれど、その時はルールに無くとも扉は開けてくれていて、キスの時だけ閉めていた。
それだから、扉の状態で何かしらの秘密を持っている事は知られるとは思っていたけれど、まさか全てを聞かれていたなんて。
「じゃ、行きましょうか。刀弥君はほっといても良いでしょう」
と、裏口が空いて真理奈さんが帰ってきた。リビングに入るなり、呆けた刀弥君を一瞥して二階に上がっていく。
ベッドのヘッド部分には物を置けるようになっていて、その板の裏側に送信機が付いていた。電池を抜くだけでは不安なので受信機も受け取って、美羽さんを部屋から追い出す。
「心配してくれたのは嬉しいですけど、これは遣り過ぎですからね。刀弥君のこと言えませんから」
「えぇ、注意するわ。でも、なにかあったら遠慮なく話してね」
「はい」




