表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

贈り物

 両親を巻き込んだ事故の加害者は、車検切れの車を暴走させて両親を巻き込んだ。

 それで、危険運転致死傷の容疑で拘留されていて当然保険金は出ず、無職である事から民事裁判を起こしても得られるお金は少ないだろうと弁護士さんから聞かされていた。

 叔母夫婦はそれでも裁判を起こすつもりでいたようだけれど、私にはどうでも良いことだった。両親が帰ってくれわけでも無く、家を取られてしまうわけでも無いのだから。


 そういった事から、受け取った保険金は両親が掛けていた生命保険だけで、預貯金や退職金と合せてもそんなに有る訳ではない。精々、近場の大学に行って卒業するくらいで尽きてしまうだろう。

 家のローンがチャラになったと言っても、固定資産税などを払い続ける必要もあって、お金に余裕が無いのが実情だった。もっとも刀弥君の家に居候しているので、ある程度の出費は抑えられている。

 それでも刀弥君には、理由はともかく命を繋いでもらった恩もあるので、バレンタインでプレゼントを渡そうと考えていた。


「真理奈さん。刀弥君にバレンタインのプレゼントを渡そうと思っているんですけど、どんなものなら喜んでもらえますかねぇ」

「リボンを付けて、『どうぞ召し上がれ』ってのが一番じゃない?」

「それはプレゼントになりません。他のでお願いします」

「それは既に済んでしまった、と?」

「いえ。食べてもらう約束ですし、覚悟も出来ていますけど」

「え? あ、そう。……じゃ、いつでも身に付けていられるような物は?」

「それって、重くないですか? 思い出に残る物ってちょっと抵抗があって」

「はい? いや、あなた達の関係が分らないよ? 近いから? それとも、口に出来ない秘密でもあるの?」

 それは私に言われても困るし、彼のひた隠す一面を言えるはずもないのだけれど、もしかして気付いているのだろうか。でなければ、『召し上がれ』なんて言葉はでないはずだし……。

 とりあえずは笑って誤魔化しておくことにしよう。


 学校では相変わらず不快な視線を向けられることが多いけれど、何人かの子は理解を示してくれて、お昼に誘って貰ったりもしている。

 それは、一緒に住んでいるのがバレていないのも影響していると思う。

 実は刀弥君の家の裏手から、会長さんの所有するマンションに抜けられて、私はそちらのエントランスを利用している。

 だからエントランスへ迎えに来てくれる刀弥君と一緒に登校して、下校時はエントランスから管理人用のキーを使ってオートロックを解除し、マンション内を通り抜けて家に入っていた。

 朝、何度か待ち伏せされたりしたけれど、刀弥君が常にいてくれるので特に何かされたりは無く過ごせている。


 毎日だと刀弥君が不愉快になるので週三回は刀弥君とお昼を食べる。

 それ以外の日は女友達と食べているのだけれど、そういった日も刀弥君は言い寄る女の子を一切寄せ付けない態度でいる。だからバレンタインが迫った今は、男子の一部からも私たちの関係を後押しする動きがあるらしい。

「あー、鬱陶しい! 今まで遠巻きにしていたのに、最近は隙あらばと狙ってくるから気が休まらない」

「しょうがないよ。いままでは牽制し合ってアプローチしにくかったけど、私程度の女と付き合っているならチャンスもあるって思ったんじゃないかな」

「ところで、奈緒さんはチョコくれるの?」

「やっぱりチョコの方が良い? 大勢から貰うだろうから、別のものを用意しようかとも思ったんだけど、何をあげたら喜んでもらえるか解んなくって」

 刀弥君がどう思うかは分からないけど、本命チョコが山のように集まりそうな感じがするので、渡すものが未だに決まっていない。


「チョコでも良いんだけど、実用的なものでも良いな。うん、安いのでかまわないからパスケースが欲しい」

 家で甘い物を食べているのをあまり見たことが無いので、チョコの選択肢はないと思っていたけれど、今年は誰からも貰う気が無いのかもしれない。なにしろ、鬱陶しいと思うくらいなのだから。

 パスケースならば一緒に買いに行くのもありだと思って、バレンタインまでの予定を思い起こして提案してみる。

「明日の帰りに買いに行こうと思うんだけど、刀弥君さえ良ければ付き合ってもらえないかな」

「むしろ一人で行かせると思うのが解んない。口は出さないから一緒に回ろう」

「うん、ありがとう。私があなたの一部になっても、使ってもらえる物が選べたらいいな」

「そうだね。こんな事もあったねと、思い出話になるものだと嬉しいよ」

 答えは笑顔を向けるだけで終わりにした。

 食べられてしまうのが惜しいと思ってしまうほどに、生に執着し始めている自分がいて、その根幹が刀弥君への好意だと言う事を知られたくはなかったから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ