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空中要塞機②

うん、春の番組改編だよね。アレが終わってしまった……まぁ、どこぞの回し者じゃありませんから、詳しくは伏せます。そんじゃどうぞ。



 寝て食って飛んで落としてまた寝て食って飛んで落として。


俺とカズンの日々はその繰り返し。だが、永遠に続くと思っていたそんな日々も、終わりを告げる時は必ず訪れる。

その始まりは、普通の人間ならば誰にでも訪れる、小さな異変だった。


……幼く見えるカズンに、変化の兆しが顕れた時、それは唐突に、やってきた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


複座式の戦闘機は珍しくはないが、後部座席から操縦や射撃管制も行えるのは我らのBD型ならではの機能だろう。

格納庫から朝日を浴びながら大気の只中へゆっくりと進み、やがて眼下に広がるオレンジ色の雲を眺めつつ発進準備を進めていく。


「……各計器異常無し……感覚素子反応問題無し……連動誤差許容範囲内……ま、いつも通りだな……菊地一尉、チンイェン、スタンバイOK。」


飛龍改二の後方に突き出された収納アームに吊り下げられたBDは、この後は折り畳んだ翼を伸ばしつつ、収納アームから切り離されて大気へと落とされるだけだ。

……一応先に言っておくが、簡単な書類上の手続きだけでチンイェンは習熟訓練を受けているが、今までそんなことは一度も無かった。

それだけでも三カ国協同作戦の影響力は十分有った、と言うことか。


「自由落下開始…………チンイェン、何時ものように飛んでみろ。」

俺が教官のように訓練開始を促すとチンイェンはHMD上の表示を視野選択でクリックし、機体を加速させた。


……言葉にすればそれだけだが、一瞬でマッハ手前まで加速しチンイェンの全身に途方もない力……荷重が加わりその小さな身体が小刻みに震えているのが見てとれた。


【……はぁ、はぁ……菊地一尉、こ、この挙動は……ぐうッ!!】


荒く息継ぎをしながら強烈な加速に耐えるチンイェンの声は、聞きようによっては微妙に艶やかにも聞こえてしまう。

もちろん俺にとってはこの加速も通常の行程に過ぎず、必死の形相で横方向への荷重に抗うその姿も他人事に過ぎない。


「……コイツの加速はこの程度じゃないぞ?……HMD(ヘッドマウントディスプレイ)上に仮想飛竜種が見えるか?あいつらは亜音速域でも平気で急転換して後方に回り込むぞ?」


【はぁ……はぁ……そんなのは、し、知ってる……わよ……んぐっ!!】


そう、俺達の戦闘機は圧倒的な加速力を武器にして、確かに飛竜種共の駆逐には成功している。

だが、未だに奴等を根絶出来ない大きな理由の一つはまず、奴等が全種類のレーダーに映らない、と言うことだ。


レーダーで奴等を捕捉出来ない理由は単純だ。奴等は金属では出来ていない。当然と言えばそうなのだが……にも関わらず生身のままで飛翔速度はマッハに迫り、地上から対空砲で狙撃してもほぼ当たらない。

濃密な弾幕を張れば可能かもしれないが、あまりにも非効率過ぎる。


結果的に同高度まで飛翔して撃ち落とすしか方法がないのだが、奴等はレーダーに映らない、と言うことは誘導兵器が無効なのだ。

赤外線ホーミング?……変温動物らしい連中は、飛翔時の体表温度は大気と全く同じかそれより低い位だ。追尾出来るのはカメラ型位だが、そんな鈍足な飛翔兵器では歯が立たない程の速度、そして機動性を持ち合わせた厄介な連中だ。


……そしてもう一つの理由は……俺は詳しいことは理解出来ないのだが、カズン達シルヴィ曰く【飛竜種も()()()()()()()()()()()()恐るべき速度で飛翔出来る】と言うことだ。


それはそうだろう……亜音速域を酸素マスク無しで飛び、しかも空気抵抗の強い剥き出しの肉体のみ……普通に考えれば全てが無茶苦茶だ。翼の端から空気の摩擦熱で白い雲を引きながら飛ぶなんて通常の生物なら不可能な筈なのに、連中は当たり前のように飛べるのだ。



【……き、菊地一尉……ターゲット……ほ、捕捉……したッ!?……はぅっ!!】


標準距離に入りはしたが、まだ仮想ターゲットとの距離は離れていた。チンイェンは射程範囲内に入ったグリーンから、必中距離を示すレッドにするために瞳孔入力(HMDのカメラにより瞳孔の収縮等から加速を選択出来る)した瞬間、それまでの加速感は通常時のリミッターオン状態だったことを思い知り、チンイェンから悲痛な叫びが上がる。


「……無理はしなくていいぞ……この機体はあくまで義体用だ。生身の人間が扱える代物じゃない。」


【……はぁ、はぁ……た、ターゲット、……ロック……オン……ぐっ!!】


彼女は何とかトリガーを引いて、ターゲットを撃ち落とそうとしたが、必中距離を一瞬で飛び越して仮想飛竜種の上方まで行き過ぎてしまい、慌てて速度を落とす。


【ひぁっ!?……ま、真後ろだとっ!?……うぅ……駄目だ……引き離せないっ!】


あっという間にマッハの領域を離脱したBDは、後方に位置した飛竜種から強烈な熱線を叩き込まれ、《飛行不能・パイロット死亡》の無慈悲な表示で習熟訓練は終了した。



【……悔しい……確かにこの機体は優れているが……操縦が難し過ぎるわ……】


「まぁ、そう落ち込むなって。生身の身体では速度調節をHMDカメラに頼らざるを得ないし、それも人間側が機械に学習させてやっとこ本領発揮出来るんだ。本気で使いこなすには乗って操って慣らすしかないんだ。」


【慣らすって、だいたいどの程度……必要?】


「……まぁ、実際に飛行しない状態で模擬運用に徹して三百時間……その後、実際に飛行して加速時の入力誤差を学習させる為に……三百時間……ってとこだな。」


【さ、三百時間……!?……ち、ちなみに全身義体の場合は!?】


「ふむ……俺は三十時間ってとこだ。三日程で終わったよ。」


その言葉を聞いたチンイェンは、黙り込み無言のまま飛龍改二へと帰還した。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



飯テロ?うん、毎回毎回はなかなか難しいのですよ……それでは空中要塞機③へと続きます。

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