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海面下の宴

やっとご飯のお話です!!さて、今回は何が出るかな?


引き続き登場人物→チンイェン・若き中国義勇軍パイロット。天性の勘が冴え渡り今日も飛竜種を叩き落とす。彼氏募集中。



 「……それにしても……あいつら、何処に居るんだ?」


俺はチンイェンに案内された艦内食堂の一つの前で、中の様子を観察していたが、あまりにも人が多過ぎて途方に暮れていた。


入り口近くまで伸びた順番待ちの列、トークン(札の一種で赤と青を交互に配布して二重取りの予防をしているらしい)を受け取り指定の定食と交換する列、そして席に座る順番を待てずに通路まで持ち出し、その場に座り込み黙々と喫食に耽る者まで……実に様々だ。


【フフフ……驚いた?これでも昼夜の交代時と比べれば空いている方なのよ?混雑している時はこんなもんじゃないんだから……♪】


何が楽しいのか判らないが、妙に嬉しそうに解説してくれるチンイェンには悪いが、ここまで騒然とした食堂は……俺達の環境では有り得ない。

しかし何時までもこうやって突っ立っていても何も好転はしなそうだ。

兎に角、うちのカズンだけでも見つけないと……帰れやしないぞ?


【ちなみに今日の料理は○○○○の青椒肉絲よ?結構、刺激的な味付けだから、シルヴィの口に合うかしら……ね?】


チンイェンはそう言いながら、この際だから私達も食事を済ませておきませんか?と誘ってくる。

……かなりの美形の彼女にそう誘われて、無下に断るのも失礼に当たると思いつつ、

俺はと言えば、並び立つ自分の見た目に多少の引け目を感じていたのだが、


【おぉ!アンタ、今さっき甲板に降りてきた戦闘機のパイロットだろ!?凄い機体だなぁ!!それと航空機用義体っての、初めて拝ませてもらったけどカッコイイなぁ!!】


目の前に並んでいた甲板要員を示すオレンジ色の着衣を身に付けた青年が振り返り、俺の腕を掴みながら興奮気味に捲し立てる。

歳の若さの勢いか、かなりの馴れ馴れしさを感じはしたが、嫌な気分にはならなかった。


「あ、あぁ……そうだが、……カッコイイ……のか?」


【勿論だとも!!聞けばシルヴィの魔法ってのも凄いらしいじゃん!鋼鉄を凌ぐ硬さの飛竜種の鱗をバターみたいにスッパリ斬ってやっつけたり、翼を蜂の巣みたいに穴だらけにしてぶっ飛ばしちまうんだから痺れちまうぜ!!】


気が付けば居並ぶ男女区別ない若者達に囲まれて、英雄の凱旋さながらの扱いを受けてしまっていた。いや、だからそれはカズンが、シルヴィが……、


……ん?これはさっきのチンイェンの反応そのものじゃないか?


俺は思わず振り返って彼女の方を見ると、笑いを堪えて必死になるチンイェンが顔を赤くしながら、


【……ブフッ!!菊地一尉……あなた、狼狽えてる姿はマンガの登場人物そのものみたいよ!?アハハハハハッ!!……あ~っ、久々に笑えたわぁ~♪】


結局爆笑しながら眼の端に溜まった涙を拭いつつ、列が動き出したから進みましょ?と、こちらを促した。

やれやれ……こんな扱いは馴れてない……ここに居る間はずっとこうなのか?


困惑しながらトークンを受け取り、前の青年に(なら)ってトークンとお盆を交換し、次々に汁物や白飯、例のおかずと副菜を受け取り開放される。


【そうそう、あなた、気付いてなかったけれど、向こうのシルヴィ達も同じようになってたと思うわよ?……ほら、見てみなさいよ?】


チンイェンがそう言いながら指差す方を見ると、人だかりに囲まれた壁際のテーブルの一角に、見慣れた銀色の髪の毛を二つに纏めた小さな頭が揺れているのが見てとれた。


「……イチイ!!これ、変わった味、でもとても美味しい!!」


俺の姿に気付いて箸を握り締めて振り上げながら、こちらに手を振るカズン。そして、


「菊地一尉!!一体今まで何処に居たんだよ……それと、そっちの美人は誰なんだ?」


妙にジットリとした視線で俺とチンイェンを交互に射抜きつつ、やっぱりテーブルに載せたお盆の前に陣取る三国、そして無言で喫食に耽るイデアもそこに居た。


周囲に居た艦内要員の野次馬は、見れば各々の食事は既に終わり、三人の見物に徹しているようだったが、

【……凄いなぁ、あんなに細いのに良く食べるなぁ。シルヴィ、初めて見たぞ……】

【辛くないのかな?シルヴィって野菜しか食べないって噂なのに……】

【可愛いのに凄い勢いで食うんだな……あ!お前何持ってきてるんだよ?】

【いや……御代わりを持っていけって班長が言ってたから……】


……つまり、俺と変わらずの扱いだった、ってところか。確かにシルヴィの二人の周りには食器の山が積まれているし、周りはそんな二人の食べっぷりを見ながら妙にはしゃいで嬉しそうにしているようだ。


「まぁ、無事で良かったな。……でも、平気か?それ、辛くないのか?」


俺は夢中で食べ続けているカズンの隣に座ると、何時もの彼女の嗜好を知っているだけに心配して訊ねたが、


「……もむもむ、かじゅん……きゃらくない!!もむもむ……○○○○、コリコリ、おいしゅいの!!」


【あらあら……すっかり気に入ったみたい……ま、確かに○○○○は変わった食感だから好きになったら病み付きになるかもね?】


チンイェンは料理に没頭するカズンを見ながら、まるで自分が作った料理を誉められたかのように、嬉しげに微笑む。


「そうなのか……ま、それじゃ、いただきます。」


俺は箸を手に取り、合掌してから皿に盛り付けられた○○○○の青椒肉絲を取り、口蓋部を開いて内口に取り込み、咀嚼する。

くにくにとした皮の噛み応えは何とも言えないのだが、オイスターソースらしき滋味と旨味の強さに味覚が支配されて食欲が増していく。


直ぐ様噛み砕くとその肉質は、柔らかさの中に軟骨特有のコリコリとした食感を伴いながらも、ふわりと解れる繊細さもあって驚かされる。

共にあしらわれるピーマンと筍の細切りは冷凍なのだろうが、短時間で油通しされたのか、シャッキリとした食感を残しながら全て同じ位に火は通っていて、中華料理ならではの確かな仕事振りが感じられる。


口の中の旨味が無くなる前に白飯を頬張ると、炊きたて特有の強い甘味が増幅され噛む度に渾然一体となって嚥下(えんか)するのが勿体無い程だった……これは、確かに癖になるな。


続いて副菜のキクラゲと豆もやし炒めは淡泊な味付けながら、しっかりと塩コショウ、そしてみじん切りのニンニク入りで奥深い味わい。歯応え豊かなキクラゲ、そして豆部分と茎芽との食感の違いが楽しい豆もやしは、炒めて油の旨味が乗り実に旨い。

通常のキノコとは違い、艶やかな舌触りの不思議な感触を残すキクラゲは複雑な傘の形状に味を絡めてしっかりと自己主張し、豆もやしはその麺に似た形状に味が染み易く強い塩気が薄くとも十分に主菜級の存在感を持っていた。


口直しに添えられた汁物は、春雨の入ったスープ仕立てで口を付けると白湯(パイタン)仕立ての鶏ダシらしく、透き通った黄色いスープは青菜とネギ、そして白ゴマという具に良く合う一品だった。

これもなかなかの味わいで、食堂の質の高さは流石に食に拘る御国柄、と感銘を受ける。


【ね?どれも結構美味しいでしょ?何せ○○○○は艦内で養殖されているから鮮度は抜群で臭みも無いし、なかなかの物だと思うわよ♪】


こちらに合わせて同様に食事を始めていたチンイェンは、無言で食べる俺の様子から、安心したのか嬉しそうに解説してくれる。

そう言われれば○○○○は我々の国では馴染みの無い食材だが、水に事欠かない潜水空母ならば海水濾過さえ出来れば新鮮な水は豊富にあるし、他の水棲動物の運搬や養殖は難しくなさそうだ。


「イチイ、ところで、○○○○って、どんな肉なの?」


カズンは旨い料理にご機嫌なのか、詳しく知りたそうに訊ねて来た。……、俺は別に答えてもいいが……○○○○が生きている時の姿は、結構グロテスクかもしれないんだがな。


「魚だよ、サカナ。確かに動物の肉に似ているけれど、れっきとした魚の肉だよ。」


「……サカナ?……それって、水を泳ぐ、サカナ?」


口の中の○○○○を飲み込みながら、イデアが不思議そうに聞いてくる。彼女はカズンと違い、かなりのハイペースだったようで周りに積まれた食器の山は相当な量になっていた。……カズンもそうだが、イデアも負けず劣らずの食いしん坊のようだ。


【知りたい?だったら後で養殖槽を見学していったらいいわよ♪餌付けの時はバシャバシャって跳ねて、結構壮観よ?】


親切心からそう言ってくれるチンイェンだったが……、


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


薄暗い艦内の一角に、《養殖・生産室》と銘打った看板が取り付けられた扉が有った。そこは動力輻射反転炉から放出された熱を利用して、高温多湿を維持した場所になっていた。


その奥へと案内された俺達は、隅から隅まで設置された水槽に(ひし)めく○○○○の幼魚が給餌の時間となり、有機廃棄物から作られたペレットに群がる様子を見学していた。


ヌルヌルとした光沢を帯びた、(おびただ)しい数の○○○○達……それらは養殖槽の中に投げ込まれるペレットに次々と殺到し、身をくねらせながら身体を回転させて必死に餌のペレットを奪い合っていく。


その光景を目の当たりにしていた女性陣は、のたうちながらぬらぬらと身を光らせつつ押し合い圧し合いしている○○○○の姿に釘付けになっていたのだが、


「きゃああああああぁ~っ!!!ウネウネ、くねくねしてるぅッ!!」

その圧倒的な数におののき悲鳴をあげるカズン。


「きぃいいいいいいぃ~っ!!!もぞもぞ、ぞわぞわしてるよッ!!」

光輝く魚体が密集しながら動く様を見て震えるイデア。


「ひぃいいいいいいぃ~っ!!!○○○○で一杯だよぅ~~ッ!!」

君は養殖ウナギ、嫌いじゃないだろう?なぁ、三国?


【……可愛いと思うけどなぁ……美味しいし。】

チンイェンの感覚は、やっぱり御国柄、なのかもしれない。

俺は似たような魚に慣れていたお蔭で衝撃は無かったけれど、カズンとイデアの二人にはショックだったようだ。



しかし、結局……要塞機に帰還する数日後には、すっかり慣れてやっぱり御代わりを繰り返していたのだから、シルヴィの適応力は流石、としか言い様が無い。



答え→タウナギの青椒肉絲。


言い訳其の①菊地一尉は日本海に面した都市出身。ノロゲンゲ等の変わった魚類に慣れ親しんでいたのでタウナギなんて無問題。


言い訳其の②筆者はタウナギ未体験ですがノロゲンゲは買って捌いて調理喫食経験済み。その体験を元に書いています。まぁ、悪くは無いが良くも無い言い訳だな。


次回は要塞機に帰るお話です。

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