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出撃準備

あっさり気味ですが更新いたします。



 「……独走はするな。」


情熱からかけ離れた、空中要塞機の機長の言葉が胸に突き刺さる。彼の言葉にぐうの音も出ない。組織に属しておいて、組織に準ずることなく自己主張のみを繰り返す(やから)は、只の薄らデカい赤ん坊でしかない。


……だからこそ、俺はキチンと段取りを踏んで、こうやって《試験用兵装》を一時的に……まぁ、何だ、借り受けにやって来たんだぞ?……本当だからな?



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


俺とカズンは地下要塞の地表近くにある、試験機格納庫内で件の人物と会うことになった。あらかじめアポは機長から連絡してあったのだろう、怪しまれることもなくスムーズに対面できた。


「……で、この二十式歩兵支援型改は、昨今のレーザー兵器に対抗する為に、様々な対策を施した改良型で……、」


機長の盟友(ポンユー)と言われていた試験担当の人物と会い、目の前に(そび)える五メートルの巨体を見上げていた……俺の伸長の倍以上あるぞ?


……そして、その試験機格納庫で出会った人物は……、


「……ん?何だ……私の顔がどうかしたのか?」



……何故、女性なんだ?


「あー、どうせ迫水(さこみず)のことだから、細かい説明を省いたか……アイツは全然変わらないなぁ~。」


……しかも、想像以上に妙齢の……俺とたいして変わらないじゃねーかっ!?


「まぁ……それはともかく、これは全身義体用の兵装だから……着装時はここに中核ユニット化しないと操縦出来ないのが難点だが……聞いてるのか?」


「あぁ、いや、はい……了解しました。ラボで省肢仕様にしてもらえますか?」


義体化していない人間からすれば、狂気の沙汰としか思えない加工だが……四肢を外して簡略化するのが省肢仕様。

……それは取り外す、と言うよりも小さな箱に首だけ出して鍵を掛けられる、に近い。手足のユニットを外されると直ぐに吊り上げられて、背部から格納部所へと固定された。


操縦に関しては、不接触脊髄端子からの疑似信号を拾うことで、この巨体を易々と動かせる……要するに、一体化して動かすだけ、と言う訳だ。

俺達、義体化兵の強味は機械側にこちら側からの伝達信号を受信する機能さえ有れば、航空機から潜水艦まで容易く操縦出来る、と言うことに尽きる。


大昔のアニメでは、手足でレバーやペダルを操作して操縦している描写が多かったが、今の俺に言わせると「無駄が多くて無意味」としか思えない。

悪いが全方位センシング機能と脊髄反射操作の義体強化兵装なら、そんな機械と戦ったとしても、正直言って負ける気はしない。


「武装は二十ミリ回転式連装砲、それと12.7ミリ単装機銃……近接戦闘用にナックルガード型の小型シールド。あと、選択タイプだけど十二連小型ミサイルポッドか、百二十八ミリ噴式単装填砲……」

《……ちょっ、ちょっと待ってくれ!何なんだ?その単装填砲ってのは!?》


俺は操縦箇所に()()()()()()()、気になる後の武器について食い下がる。耳慣れない噴式だとか単装填砲だとか……。


「いや、別に難しい類いの兵器ではないぞ?単発のライフル砲で、発射する度に空薬莢を手動で排出し、バックパックから取り出した砲弾を装填するタイプだ。それと発射後は目標まで噴進し着弾後、スリーブから放たれた弾芯が装甲を……あ、相手は飛竜種か?ならばこれは……」

《いや、ぜひ単装填砲にしてほしい。誘導兵器は必要ないし、弾頭次第ではうってつけかもしれない。》


飛竜種との戦いに於いて、前時代的なロケット弾で圧倒的な撃墜劇を見せてくれた奴も居る訳だし……俺も負けては居られないさ。


俺は必要な弾薬と充電池を空挺キャリアに積んでもらい、義体の残りのパーツは後ほど飛龍改二へ送ってもらう手筈を頼んだ。

……帰っていきなり四肢が無い、と言うのも不便も多いものだ。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


滑走路に引き出された空挺キャリアは、俺が兵装に乗り込んだままでも遠隔操作で飛翔できる。


「イチイィ~!!お腹空かないように、食料沢山くれたよ!!それと、三島サンいい人!!」


三島試験検査官、と言うのが呼び名と肩書きらしい彼女は別れ際に、結構な量の携帯食糧をカズンに託してくれたようだ。

俺の生体部品用栄養剤と、カズンの食糧を積み込んだ空挺キャリアが、滑走路にその姿を現す。


ずんぐりとした胴体部分に差し込まれた強化兵装は、さながら翼を付けた拘束衣を纏った囚人のようだが、投下時には分離して空挺キャリアはグライダー状態で滑空し上空で待機出来る機能がある為、撃墜される心配さえなければ帰還するまで飛ばしておくだけで問題はないそうだ。 


「……イチイ、カズン、お腹空かないように食べてて、いい?」


《……あぁ、それは任せる。俺はまだ必要無いから、先にやっててくれ。》


無線でカズンと会話する俺達を乗せて、空挺キャリアは地下に設けられた滑走路を加速していく。飛翔速度まで分離型のジェット噴機を利用して加速を続け、唐突に地上へ現れたかと思った瞬間、フワリと宙に舞い伸びやかに上昇していく。


気付けば地下要塞の地上施設の滑走路端から飛び立ったらしく、眼下にはカズンと降り立った滑走路も見える。


……次にここへと来る時は、飛竜種の居ない世界になったとして、いつまで要塞不要の時代が続くのだろうか。

……いずれ人口が増加して国々が力を取り戻していった時、また様々な争いが起きるかもしれない。その時までカズンと俺は生きているかは判らない。


「……見慣れた戦闘機と違って無粋ね……」


何処からともなく湧き出して来たファルムがカズンの隣に座り、彼女がパクついていたハイカロリーなビスケットを一枚抜き取ると、


「……あむ、……ん、甘いわねぇ……カズン、これ何枚食べたの?」


「……六枚……目。」


……食い過ぎだろ?それ、一枚で小さめな茶碗一杯分のご飯相当だからな?

でも沢山食べておいてくれ……それと、


《……カズン、お願いがある。……そのアンプルを……注入口に当ててくれ。》


機体に固定されている俺は身動きは出来ない。だからカズンに頼んで栄養剤と……後発覚醒剤(精製を重ねて純度を極端に上げた薬物。生身の人間には致死量でも、体内に調整しながら投薬出来る機能を持つ全身義体には死に繋がり難い)を注入してもらう。


「……?判った……こう……ッ!?」


カズンがビクッ、と身を震わせながら見守る中、装甲の隙間に差し込んだアンプルの液体が、隔離箇所から体内へと吸い込まれて行く様を見続けている。


「……イチイ、これ、なに?」


もむもむ……、とさっきのビスケットを頬張りながら、カズンが尋ねてくる。しかもその横ではファルムが舌の根の乾かぬうちに、同様にビスケットの虜になっている。……喉渇きそうだ……。


「今入っているのは……後発覚醒剤だ…………使い道は……()()()……さ。」


「……じけつ……?」



……手足を動かせない強化兵装で、もし捕虜や……最悪、復帰不可能な状況を迎えた場合、俺のような完全義体化兵が自決する方法は……薬物の過剰摂取(オーバードース)、しかも……使用するのは強力な後発覚醒剤……最強の現実逃避だな……。


「カズンには必要無いから、心配いらんよ。」


カズンには使わない誘導弾頭用ウェポンラックを活用したバックパックに入っていてもらう。安全とは言い難いが……ま、お互い様か。


「もむもむ……ああ、喉が乾くぅ……イチイ、そろそろ《向こう側》に転移しても大丈夫か?」


カズンから飲料水を受け取りつつ、ファルムが準備を始めるようだ。俺に尋ねてきたので、暖気を兼ねて兵装のシステムチェックを始める。


《…………こちらも準備を進める。カズンに乗り込んで内側からロックを掛けるように言ってくれ。》


……さて、クーデターの片棒担ぎか……上手くいけばいいんだが。



お互いの準備が終わったのを確認し、ファルムが【異世界への入り口】を開くのを確認しながら、俺は空挺キャリアに進行方向を入り口へ指示しながら分離準備を始めた。



では、次回「異世界」へ続きます。

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