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三ヶ国合同作戦①

新しい登場人物→三国(みくに) 里津(りつ)。お隣の要塞機のパイロット。


        イデア。シルヴィ。カズンよりも直情的。



 「………………ザッ、……菊地一尉…………前に出過ぎだ……」


後方に位置している口煩いロシア機からの御咎めを聞き流しながら、俺は後席のカズンをバックカメラで視認する。カメラの絞りに気付いたのか、軽く手を振ってこちらに笑いかけながら、


「イチイ、まだ、近くに飛竜種、居ない!!」


と告げ、やや緊張した横顔を見せつつ側方、そして上方へと視線を動かす。

カズンの索敵能力に疑問など抱きはしないが、この大作戦に至った経緯を思い返すと空振りだけは有って欲しくはない、いや是が非でも成果を挙げて凱旋したい気持ちになる。


そもそも今回の合同作戦は、各大陸に生き残った人類がこれから再度の復興を成し遂げる為に必要な《生き残る手段を探る為》の一つなのだ。

現在、国家として存続しているのは日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、中国、ロシア、そしてインドの7つであり、各々は地下や海底に避難施設(シェルター)を確保出来た国だけ。それ以外の地域では小さな共同体程度は存在していても、集団で固まることにより飛竜種の標的になってしまうことを避ける為にそれ以上の組織は形成することが困難になっている……。


などと、堅苦しいことをこねくり回して難しく考えるのは俺には無理だ。今日も飛竜種(蠅ども)をぶち殺して駆除する。それが俺とカズンの仕事だ。


「オーケー、カズン。居たら直ぐに報せてくれ。いつものモーニングシャワーで連中の寝ぼけ(まなこ)を抉じ開けてやるさ。」


「イチイ、カズン、頑張る!!」


首を廻してカズンに親指を立てて見せると、彼女も同じようにしながらニッコリ笑う。お前が見つけてくれれば……俺は必ず狙った奴の脳天に弾丸を叩き込んでやる。

その為ならば、この身体を幾らでも削り血肉の最後の一滴まで差し出してでも……成し遂げてやる。


脳核の奥底まで食い込んだ接続端子から、駆動系全てに速度限界まで引き出すよう命じた瞬間……過激な加速が強力な荷重を生み出し全身がシートにめり込んでいく。

カズンはそんな状況になっても苦痛の一片も見せることもなく、バイザーを上げたヘルメットと耐寒仕様のフライトスーツのみの軽装にも関わらず、平気な顔で左右二つに束ねた髪の毛を揺らしているだけだったが。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……協同作戦……中国とロシアと……、ですか?」


俺は直属の上司、飛龍改二の艦長の奥田二佐からの命令を聞いた後に尋ね返してしまった。

普段ならそんな言葉を出したりはしないのだが、余りにも突飛な内容に思わず口に出てしまう。


まず、中国は確かに大国ではあるが、所有する戦闘機の数はともかくパイロットの質と機種の性能にばらつきが多いと噂され、あまり良い印象は抱けない。

そしてロシアは古くからユニークな設計思想の機体を数多く所有する国家ではあるが、何分にもアメリカと比較すると先進的な技術力に欠けていて、対飛竜種との戦いに於いては未だ有効的な戦略を構築しているとは言い難く、果たしてどれだけの実力があるのか判らない。


つまり、三国が一緒に戦ったとして、どれだけの飛竜種を駆逐出来るのか判らないのだから返答のしようがないのだ。


「菊地一尉、君の疑問も理解はしている。俺だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だが、今回の作戦はアメリカが立案した、残るインドとの五か国協同作戦に向けての前哨戦……という訳だ。」


軍隊特有の短髪に白髪の見え始める歳の艦長は、そう言いながら顎を擦り、髭剃り後を確かめた後に俺とカズンの方を見た。


「そいつは……笑えない冗談で……いや、噂だけはずっと聞いてきましたが、それは《シルヴィの束ね主》の絡んだ話でしたかね……確か。」



《シルヴィの束ね主》とは、シルヴィ達がこの世界に転移する切っ掛けを作った突然変異の主導者のことだ。

《シルヴィの束ね主》は、彼女達シルヴィが魔力はあっても知力に劣る【優秀な単能種】でありながら、唯一その者だけが類い稀な知力を有し、シルヴィ達を束ねて被支配の(くびき)を絶ち切るべく団結するよう促し、総力を結集して大転移を成し遂げたのだ。


その彼女は今はアメリカに身を寄せ、各国に散らばった同志とその能力を駆使して連絡を取り、各地のシルヴィ達が落ち着いて暮らせるように働きかけながら、自分達の在り方を人間に保証させているらしい。

見た目は並のシルヴィと変わらないにも関わらず、卓越したその魔力は完全に埒外……あと、それにかなりの美貌らしい。


まぁ、シルヴィ達は総じて見目麗しい事に変わりはないが、知力の低さに乗じて良からぬ事を望む輩も居なくは無い。そんな連中から仲間を遠ざける為に各国に《自分達は保護し積極的に活用した方が国家側に利がある》と納得させたのも彼女の力らしい。……催眠術でも使えるのだろうか?


「とにかく、ロシアの二機と中国から六機、合計十機の主力機とパイロットを出撃させて成果を挙げるのが目的だ。……出撃場所は、カムチャッカ半島北部に位置する【三つ巴の巣】近辺。」


「そいつはまた……笑えない。笑えないうえに、危険極まりない……俺に集団自決でもさせる気か?」


【三つ巴の巣】は、飛竜種がこの世界に顕現する文字通りの【巣】と呼ばれる箇所が、三つも隣接している危険地帯だ。

こちらとあちらの世界の繋ぎ目から湧き出すように現れる飛竜種、その発生箇所は何処にどれだけ在るのかは不明だが、少なくとも【三つ巴の巣】だけは常に其所に在り常に飛竜種を吐き出し続けている。


過去に核弾頭を用いて根絶を図る計画があったが、【シルヴィの束ね主】の「核如きで飛竜種を根絶させることは出来ない。台風を吹き飛ばせないのと同じ道理だ。」と言われて撤回した経緯があるとか。

言い得て妙、かもしれない。日本は台風の通り道だから素直に頷ける。


「心配するな、集団自決になんぞ成りはしない。こちらからはお前とカズンのペアと、三国(みくに)とイデアを出す。だから心配ないだろう?」


「……三国とイデア?……あの激しいコンビか……確かにそれじゃ共倒れにはならないかもしれないが、協同作戦なんて望めないぜ?」


三国 里津(りつ)一尉とイデア。三国は数少ない女性のサイボーグパイロット、そしてイデアは起伏の激しい直情的なシルヴィ。

そんなコンビは撃墜率も高いが機体の損耗度も高く、仲間から裏では《狂犬コンビ》と渾名(あだな)されている。


俺達が所属している飛龍改二と隣り合わせの飛行要塞【鶴龍改二】に所属していて、時々は協同作戦や同行偵察も行う時もあったが、三国は先行そして単独行動を望む傾向が多く、結果として後衛を余儀無くされてしまい毎度カズンに「イチイはミクニのおしりが好き?」と皮肉られている。

確かにいい尻はしているが、三国は少々ヒステリックで手に負えない女だ。あまりまともに付き合いたいと思えないタイプだ。


「……心配はいらん、と保証は出来ん。だがとにかく成功しようが失敗に終わろうがそれは構わない。今回は三国を気遣って二機とも無事に帰ってくればそれでいい。」


「いやだ……と言っても拒否権はないんだろう?……だったら喜んで行って、それなりの成果を挙げて二機とも戻ってくるさ。」



……三国を気遣って、二機とも無事に帰ってくればよい……か。

艦長は悪い奴ではない。長と名の付く役職ならば気遣いや気配りは仕事の一部と同じようなものだ。彼にしてみれば願望を含めた薦めなんだろう。

しかし、出撃して無事に帰ってこい、それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて都合が良いにも程があるぞ?


「イチイ!いつもと同じ!!飛んで射って帰る!!それにイデア、良い眼のシルヴィ!!」


「……そうだな、飛んで射って帰る……だな。ん?イデアの眼が良いって?」


シルヴィのカズンにとって、眼は単に何かを視るモノではない。力を取り込む役目も担っているらしい……吸気口なのか?


「イデア、良く見る。だから、ミクニ、安心です。」


「そうなのか?機内のことは外部からは余り判らんからなぁ……平行していても離れて飛んでいるし、まぁ、結果を見ればそうかもしれんな。」


さて、いつもと同じに相手してやろう。でなきゃ意味が無いぞ?この身体。




すいません二回目にしてご飯が出てきてません。長過ぎる一編を分割してお送りしております。

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