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二つの世界

登場兵器→飛龍改二。亜宇宙飛行要塞機。機体全体で揚力を生み出す目的で楕円形を採用。最大四百人収容可能の空飛ぶ要塞。余りに巨大な為、宇宙で組み立てられて降下しながら運用を始めた究極浪漫なトンデモ兵器だったりする。備蓄食料と栽培種苗で三ヶ月の無補給運用可。展望露天風呂付き。



 「どれ程の違いがあったにせよ、私達の二つの異世界は、やっぱり同じ物なのよ……」


ファルムの告白は、俺の思考を停止させるだけの重さを持っていた。


確かに環境は違う、住む種族も違う、文明の要素も、それを元にした文化の醸成も、ましてや……科学と魔導、といった根底に流れる法則のような物すら共通性の欠片も見当たらない、二つの世界……。


……だが、ならば何故……シルヴィ達は我々の世界に流れ着き、飛竜種は侵入して蹂躙し、カズンは俺と触れ合い食事を共にして、そして……亜紀は何故、喪われていったのか……?

いや、全く接点そのものが無い世界同士だったのならば、決して交わる事はなく、絶対に互いに干渉することもなく、縁遠く存在するだけの筈だったろう。


全く違う線上に有るならば、重なり合いはしない。だが、二つの世界は交わり合った。


目の前に座り、寂しげに頬杖を着きながら、自らが発した言葉によって沈黙する俺を眺めつつ、ファルムは静かにソファーの上に横たわり、身を捻らせた。


上体を起こして肘を着き、上半身をこちらに向けて俺を見据えたまま、唇へと新しく点けた煙管を近付けて、


「…………んふ、……ふぅぅ……。……そう、怖い顔をしないで……?」


「……余り感情が顔に出ないタイプ、なんだがな……。」


「……知ってるわよ……ただ、時々無性にからかいたくなるだけよ?」


紫煙は宙を漂い、煙を感知した空調設備が突然動き出すと、室内の空気を一定のリズムで攪拌し始める。

その複雑な流れる煙を眺めていたファルムだったが、急に悪戯を思い付いた子供の様にパチンッ!と指を鳴らし、フワリ……、と優雅に髪の毛を掻き上げて宙へと跳ねさせて、


「フフフ……♪私は【風の種族】のシルフィード……風を操り、大気を意のままに玩ぶ空の妖精……!」


と口走りながら、煙管を片手に持ちつつそのまま両手を前に突き出して、ゆっくりと指先を廻すように丸めていく。

……するとどうだろう、排出口へと吸い込まれていく筈の紫煙が急激に指先へと集束し、次第に球体へと形を変えていき、グルグルと回転して彼女の手の内に纏まっていく。


「……風を集め、雲を動かし……身を漂わせ……そして何時かは消えていく……。」


そう言った瞬間、球体は急速に回転を早めて目で追えない速度まで加速したかと思った直後、竜巻になって一気に排出口へと突進し、何事もなかったかのように消えてしまった。


「ねぇ、キクチ……私は……【初代の竜帝】に見初められた、最初のシルヴィだったわ……」


そう言いながら身を起こし、手にした煙管の灰をコンッ、と灰皿に打ち付けて落とし、肩に羽織っていたショールをはらり……、とソファーに載せて、警戒するカズンに向かって、心配しないでいいわ……()()()()()()()()()()()()()……と囁きながら、向かい合っていたソファーから、隣の場所まで移りつつ、静かに語り始める。


「……キクチ、貴方はこの世界で産まれて、そして生きているわ……同様に私もそう……向こうの世界に産まれて【初代の竜帝】と共に生き、様々な時代を見てきたの。」


彼女の視線は俺を見据えながら、しかし、更に先へと貫くように注がれて……きっと、遠い過去の記憶を辿って引き出そうとしているのだろう。


「……でも、私の世界に共通していたことは、味気無く……豊かな色彩も……ましてや喜びの感情も引き出すことの無い、無残な食べ物しか存在しなかった……」


……俺は彼女の告白を聞いて、その内容を反芻していたが、余りにも現実味の無い事実に驚きと、彼女達……シルヴィ達に課せられた過酷な状況に対する言い知れない怒りを覚えて震えていた……。


彼女達には、味覚が存在しなかった訳じゃない……いや、それどころか、未知の味覚に触れる度に感動し、喜びに身を震わせる位の豊かな感情すら持った、愛すべき隣人とも言える筈なのに……彼女達にはその機会も、その可能性すら与えられず……飢餓寸前に追い込まれれば反射的に冬眠状態へと追いやられ、愛を語り合う相手を与えられることもなく……ひたすらに搾取され、道具のように使い捨てられて、儚く消えていくだけだった、と言うのか?


「……そして、そんな粗末で哀れな食料ですら、自分達を生かす為に仕方なく摂取し、更にはそれを奪い合い……時には命ぜられるままに、仲間を葬ることすら強いられ揚げ句の果てに……新しい兵力増強の為に献上することすらあったわ。」


「……何なんだよ……それじゃまるで……まるで、ゲームの世界の駒そのものみたいじゃないか……ッ!?」


ギシッ!とソファーの肘置きが軋みを上げて、俺の手の内で折れ曲がって音をあげる。

怒りの矛先を納められぬまま、俯瞰視モードを急激に立ち上げて室内の環境をサーチすると、驚くことに【正体不明(アンクノウン)】と表示されていた筈のファルムの座る箇所には、【F・未登録】と表示されている。

……F、つまりフィーメル……女性、もしくは雌性を現す存在、として認識されている、と言うことか?


「……ファルム、お前は……次第に人間に近づいているのか……?」


「……その様子だと、貴方のお得意の分析力で私のことを調べてみたのね?……そうよ……私はこの世界に足繁く赴く内に、()()()()()()()()()()()()()()へと……変貌しているようね……」


「……そんなことが……いや、なら……どうしてそれが判るんだ?」


俺はファルムの高度な知能ならばそれは可能かもしれない、と思いはしたが、ならば何故、それを確証として口に出すことが出来るのか?と(いぶか)しんだ。


「……それは簡単よ?……貴方の目の前にずーっと居る、その子を見続けていた貴方にならば……直ぐに理解出来る筈でしょ?」


俺は自分の後ろに隠れているうちに、長く退屈な話に飽きたのか眠りこけていたカズンを見て、そうなのか……?と自問してみる。

確かにカズンは……最初は感情も乏しく、与えられる食事に対する反応も薄かったにも(かかわ)らず、次第に感情も豊かになり、喜びを精一杯に溢れさせながら食事を楽しむその姿に……ファルムの姿を重ねてみる。


……最初の出逢いの際は、敵である筈の俺に対してまるで品定めするかのように付き纏い、次に現れた時は自らの世界の一端を垣間見せつつ、そして今は提供されたコーヒーの豊かな薫りに喜びを(あらわ)にし、異なる世界と交わることにより、自らに生じた変貌を包み隠すことなく告白すらしているのだ。

それどころか、二回目に遭遇した時には彼女の存在を機械が感知することは極めて困難だったにも関わらず、今さっきは彼女が吸った異界の煙草の煙にセンサーが反応し、空調装置が作動していた……!


「……まさか、君の狙っている竜帝への矛先は……本当は自分達の灰色の世界に……こちらの色彩を浸食させる為……なのか?」


どのようにして、そうした結末まで導こうと策を巡らせているのか、それを確かめるべく訊いてはみたが、


「……あら、私のことを君、なんて呼んで下さるなんて……面映(おもは)ゆいこと……♪」


ころころと鈴が鳴るような心地好い声で笑いながら、微妙に話をはぐらかせつつ、カズンを抱き上げてソファーへと寝かせる俺の姿を眺めながら、ファルムはしかし、落ち着いた様子で、


「……さぁ、それはどうでしょうかね……?……正直に言えば、自分でも判りかねる、と言うのが正直な気持ち……ですけれど……。」


そう言いながら、……あら、もう夕闇が降りる頃合いですわ……、と妙に慌てる素振りを見せながら立ち上がり、ソファーからストールを手に取ると肩に羽織り、艶然と微笑みながらリビングの扉へと手を掛けて、


「……また、お逢いしましょう、キクチ……いや、()()()……♪」


そう言うと一瞬だけ頬を朱に染めながら、扉の向こうへと歩いてリビングを後にした。


……その瞬間、俯瞰視モードに表示されていた【F・未登録】の文字がゆらり、と薄くなったかと思うと消えて、何も表示しなくなっていた。




事態は急速に転換期を迎えます……イチイの思惑を余所にして。次回「風の種族の国へ」へと続きます。

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