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飛竜種襲来

つい最近までヒューマンドラマで登録していた今作品。おかしーなー、俺にとってはそーなんだけどなー。チートも無双もイチャラブも無いし。


 格納庫に到着した俺とカズンは、足早に自機へと向かい、タラップを登り機内へと収まる。

パイロットの搭乗を感知した機体は即座に待機状態からスタンバイモードへと移項し、機器の作動状態を表すランプが点き始める。

《……パイロット・菊地一尉、搭乗員・カズン。着座位置確認、ハーネス……固定。》

パシュッ、と圧縮空気が漏れる音と共に、身体を固定するアームが肩から胸へと伸び、ロックが掛かり後頭部を固定する。


エアクッションが膨張し、身体が座席に固定されると後頭部に端子が伸びて延髄付近に接触。端子から同期信号を送受信すると一気に流れ込む情報が増えて頭の中がチリチリする錯覚を感じたが、直接脳内に情報を入れている訳ではないので心配はしない。……しても仕方がないが。


「……発進準備完了。カズン、そっちはどうだ?」


「……んしょ、終わった!!あ、イチイ!班長さん、来た!!」


ヘッドホン付きのバイザーヘルメットを被ったカズンが、外に向かって手を振ると開いていたキャノピーと機体の間から紙包みが差し出され、カズンが受け取る。


「急いでたから同じものばっかでゴメンなカズンちゃん!!……菊地一尉、くれぐれも気をつけてな?……無事の帰還を祈る!!(グッド・ラック!!)


ゴツい見た目の角刈り頭がヒョイと現れて、強面(こわもて)の食堂班長が俺とカズンにそう言うと、軽く敬礼をしながら機体から離れていく。


「直ぐに発進するから、お前もしっかり燃料補給しとけよ?……舞い上がって直ぐに空戦が始まるだろうからな……」


「…………あむっ!!……んふぅ?…………んぅ!!」


……食いながら返事するなって……さて、こちらはこちらで準備するか。


「……脳内接続素子……反応問題無し、……義体同期状況……異常無し。」


通常の確認作業とは違う全身義体の各種確認作業、そして同期完了と同時に管制官へハッチ開放のサインを出す。


ゴゥン、と重々しい音を響かせて、格納庫のハッチが開き、収納用アームに固定されていた機体が外へ運び出されていく。


真っ青な大空の下、吊り下げられたままハッチの外で徐々に折り畳まれた翼を広げ、そのまま落下。


自由落下(フリーフォール)で降下する自機の中から周囲を見回すと、飛龍改二から散発的にレーザーが射出され、迫り来る飛竜種を撃ち落としていくのが見える。

希薄な大気だからこそ効果のある強烈な光線が伸びる度に、直撃を受けた飛竜種が煙を上げながら墜落していく。

未だ発進している戦闘機はまだ見当たらないが、後続が来る前に一仕事しておこうか。


俺はカズンの様子を後部カメラ(首を巡らすことなく全方位を見る為に備わっている)を使って眺めてみると、手にした黒い棒状の物を夢中で頬張る姿が見てとれた。


「……カズン、お弁当はなんだったんだ?」


《……んむぅ?……にゃっとう………………みゃき!!》


ヘッドセット越しに聞こえたカズンの返事だが……にゃっとう?……マジかよ!?……見れば口元からユラユラと糸が漂っているのが見えるぞ……班長!!何で納豆巻きなんだよ!!せめて他の物とかなかったのッ!?


……まぁ、いいか……。とりあえず、お腹一杯になってくれれば……ヨシとするか。ただし、無事に戻れたら機内クリーニングしないとイカンな、絶対に。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


……カズンの食事風景のせいで緩んだ空気の機内だったが、一番先に飛び立てば目立つ存在になるだろう。


翼を伸ばしながら滑空する自機に向かい、五匹の飛竜種が接近して来るのが俯瞰視モードの視野で捉えた俺は、同期レベルを最大限にする。







      …………大気の只中を、俺は飛んでいる。


誇張ではなく、剥き出しの肉体に音速域の濃密な空気がぶつかり渦巻く様子が感じられ、肩を捻ればその微妙な動きのみで飛ぶ方向が変化する。

後ろを振り向くと、獲物に逃げられまいと飛び舞う飛竜種の姿が見える。


背中の真ん中辺りにはカズンがちょこんと座り、そんな最中なのに最後の納豆巻きを噛み締めて、手を合わせてごちそーさまでした、と呟いていた。

律儀な奴だが、口の端に納豆が付いているぞ?


完全に同期している為、身体と機体のズレは存在しない。機体のセンサー全ては俺に正確な情報を的確に伝え、瞬時に変わる状況に対応する為に必要な動作を導いてくれる。


《イチイ!……カズン、やってみたいことがある!》


【……ヤッテミタイコト?……イイゾ、試シテミロ。】


カズンの声に電子変換された声で返すと、カズンはゆっくりと息を吐き、そしてゆっくりと吸い、意識を集中させていく。


身体に感じていた空気に変化が現れたことを、センサー類が検知し即座に伝達してくる。

機首に衝突する大気は希薄になり、翼に当たる大気は相対的に濃密になっていき、揚力の変化が生じて飛翔角度に異変が起きた為、翼の角度を変更して対処すると、機体の速度が著しく上昇していくのが判る。


……やるな、まさか機体に接触する大気に強弱を付けることにより、速度を向上させたとはな。これがシルヴィ達の言う【飛竜種が風の力を利用して速く飛ぶ秘訣】って訳か。


【カズン、細カク変エラレルナラ、吸入口付近ノ大気ヲ濃密二出来ルカ?】


《…………やってみる………………ッ、……こう、かな?》


急激に空燃比率が変わり、エンジンが一瞬空転するような微振動を起こすが、直ぐに比率を変更し調節すると、燃料供給量が倍加し急激な増速に繋がり一気に加速し始める。

何故、今までと異なる魔導の使用方法を繰り出せるようになったのかは判らないが、肉体的な成長に伴い魔導の技術も向上したのだろうか?


最早飛竜種達とは豆粒程の大きさになるまで距離を離してしまったが、俺は奴等と戦う為にこの空を飛んでいるのだ。

通常時では有り得ない急角度のターンで反転すると、見るまに奴等との距離が縮まる。


逃げた筈の獲物が自ら戻ってくる姿に、牙を打ち鳴らして狂乱する飛竜種共……心配するな、ちゃんと()()()()()()()()()


俺は右から左に小さく捻り込みながら、狙いを付けて発射されるブレスレールガンを避けつつ接近し、即座に逆方向へ小さく横滑りさせながら新たなブレスレールガンも避ける。

レシプロ機時代から受け継がれてきた、手垢の付いた空戦の対処方法だが、相手の攻撃が当たらなければ何だってやる。


直ぐ様チェーンガンのロックを解除すると、先頭の飛竜種に一掃射。機体の下にばら蒔かれる大量の薬莢、そして薄黒い排気煙が渦巻く中、吸い込まれるように飛翔する炸裂破砕弾が容赦なく叩き込まれ、狙いを付けた一匹の頭部がザクロの様に膨張し、派手に破裂して血肉を撒き散らしながら落下していく。

続けてすれ違う直前に後続の一匹の翼の付け根へと一掃射し、肩から背中にかけて弾着を集中させて翼ごと半身を吹き飛ばし、肉片を飛び散らせながら落下する様子を確認後、急激に上昇そして即座にエアブレーキをかけて急減速させる。


その機動により機体が直立状態になりながら空中でほぼ停止した瞬間、エンジン出力を最大限まで上げて逆様になりながら加速開始。

翼を可変させて転回能力重視にし、フラップとエアブレーキを併用しながら追い縋る飛竜種の真上を取り、


【カズン、魔導デ撃テルカ?】


準備は済んでいたのか、直上からの広範囲を包み込む氷の(つぶて)が通り過ぎた後、空を飛んでいる飛竜種はその場からは居なくなっていた。


【ヨシ……上出来ダ……ッ!?】


俺は飛竜種とは違う異質な気配を感じ、俯瞰視モードに切り替えながら再可変、最大出力で加速しつつ周りを見ると、遠く離れた雲の切れ目に新しい【世界の継ぎ目】が顕れ、そこから身を(よじ)りながら紫色の巨体がこちら側へと出てくるところだった。


《…………ぐぅっ!?……や、いやぁ……だめぇ……っ!?》


不意に機内にカズンの叫びが響き、慌てて彼女を見ると、頭を抱えて必死に何かから逃れようとして身を縮めていた。


【ドウシタ!?……マ、マサカ、アノ……皇竜種……ッテ、イウ奴カ?アイツノ仕業カ?】


ブルブルと小刻みに身体を震わせつつ顔を上げ、縋るような眼で俺を見ながら、


《…………カズン、見つかった……コーリューシュ、()()()()()()


そう言われた瞬間、全身をこちら側へと引き摺り出した皇竜種の鼻先に虹色の壁が顕れて周囲の景色が滲んだ瞬間、矢のような初速から羽叩きもせずに瞬時に音速の壁を突破する。

以前にも見たが、飛竜種はこの戦闘機と同じ位の大きさだが、皇竜種は倍近い全長、そして三対六枚の翼を持ち、その翼をゆっくりと揺らめかせながら、しかし魔導の技か信じられない速さで距離を詰めてくる。


【……アレガ奴ノ本当ノ飛翔カ……カズン、大丈夫カ?……カズンッ!?】


ぐったりとしながら身体を弛緩させるカズン。空腹ではない筈だが……けれどその様子は魔力切れの兆候その物だった。

俺は何故かと考えたが、きっと慣れない魔導の連続使用で早く消耗してしまったのかもしれない。


手を伸ばしてカズンの頭を撫でたが反応は無く、気付けば機体に纏っていた大気の変化も消え失せていた。

先程までの異次元の加速も鳴りを潜め、空燃費の浪費に成り兼ねないと悟って直ぐに初期状態へと戻した。


【……クソッ、皇竜種ハ何処ダ?……真上!?】


いつの間にか機体の直上に定置した皇竜種の姿に、背筋の凍る思いがする……意識的に俺達を捕捉しているのに、何もしてこない……何故……?


その時、聴覚センサーに外部からの音波干渉が発生し、ザーッ、という雑音が続いた後、突然何者かの声がハッキリと聞こえた。


《…………見つけたぞ……()()()()()()()()……》


頭の中に直接響くそれは、ビロードのように重厚な艶がありながら、シルクより軽快な光沢感のある、艶やかで女性的な響きを持つ声だった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



それでは次回「皇竜種とサイボーグ」へと続きます。

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