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花畑で捕まえられて

 学校の行き道、ミイはいつも憂鬱でした。学校なんて行きたくなかったのです。ミイは授業がおっくうに感じることはよくありましたが、その原因は授業や勉強が嫌いというわけではありませんでした。

 ミイが教室に入りますと、そこにいた男の子たちが一斉にミイを見てやんやと声を上げます。


「やー!ゴマっかすが入ってきたぞ!」


「ゴマがうつるから近づくなよ!」


 ミイの頬にはそばかすがいっぱいついていたのです。女の子にとってそれはとても嫌なものですが、ミイの場合クラスの男の子に目を付けられて毎日そばかすのことを馬鹿にしていました。でも、そばかすは取ろうと思っても取れないものでどうしようもありません。

 クラスのみんなも誰も助けてもらえず、男の子たちからはそばかすのことをゴマと言ってミイがそばを通るだけで避けてしまうのです。

 ミイはこんな毎日嫌でたまりません。けど、どうすることもできなくミイは自分を押し殺して窓側の自分の席に座ります。

 担任の先生が教室に入ってくると、いつものようにいきなり授業を始めませんでした。


「え~皆さんに注意連絡があります。最近、この街の周辺で皆さんと同い年の子が行方不明になる事件が数件発生していますので、学校が終わったらまっすぐ家に帰るように」


 ですが、ミイは先生の話を全く聞いていませんでした。ずーっと窓に映った自分のそばかすのことを見ていました。こんなそばかす消えてしまえば楽になるのにとミイは思いに更けてました。

 すると、後ろから小さい何かが背中に当たりました。どうやら、消しゴムをちぎった小さな塊を後ろの席の子が投げつけてきたのです。これもいつものことですが、もう嫌で嫌で仕方ありません。


「あそこに行こう」




 放課後、大半の生徒は家にまっすぐ帰りましたが、一部の生徒は先生の話を無視して無視した友達と一緒にどこかへ遊びに出かけました。ミイもその中の一人に入ってました。

 ですが、ミイには一緒に遊ぶ友達はいません。ミイが行くのは彼女だけが知っている秘密の場所です。そこは、学校の反対側の崖の下にあるミイぐらいの子供が入れる穴の中にありました。

 狭い土の壁で服が汚れますが、ミイは気にしません。その先にあるものを見てしまえば今日一日の嫌なことを忘れてしまうほどのものがそこにあるのですから。

 土のトンネルを抜けると、そこには見たこともないような背の高い草や木々が生い茂り、色とりどりの花が咲き誇っていました。

 木の幹はかなり細くしなやかさを持つ独特な形を持ち、その枝から生えている産毛のような白い花が麗しく。ひまわりのように大きな花を持った草はたちどころにその柔らかな香りが漂います。

 ミイは、そこの花々を見て今日あった嫌なことを忘れてしまうのです。そして初めて森の奥まで行きますと、そこには三メートルほどの高さのある土の壁がそびえ立ってました。

 ミイは、この上には何があるのだろうかと興味を持ち、スカートを踏まないように木の根をつかみながら土の壁を登ってみますと、そこには高層ビルほどの高さのある大木が気が遠くなるほどそびえ立ってました。

 こんな光景誰も見たこともないだろうとミイはウキウキして、大木たちを見上げながら歩いていますと、遠くに人の姿の姿が見えました。ミイは他にもここを見つけた人がるたのかと少し残念がりましたが、挨拶がてら「おーい」と呼びます。

 その人がこちらに気づいてだんだんと近づいてくるとその姿がはっきりと見え始めました。どうやら青色のワンピースを着た女の子のようでした。

 ですがどこかおかしいことに勘付き、ミイはとっさに木の陰に隠れて息を殺します。

 女の子がミイの傍の木に着くとその女の子の姿がわかりました。女の子は背中まである明るい金色の髪をしている十歳ぐらいの子でした。ですが、大きさはミイのいる大木の半分ほどの大きさだったのです。そう、女の子は()()だったのです。

 もし見つかったら何をされるかわかりません。震える脚に力を込めて抑えながら、声が漏れないように手で口を押えます。

 すると、突然ミイの体が風でふわりと浮いたのです。けれど不思議なことに、その風は突風のような強風でもなく、やさしく包み込むような感じで空へと運ばれていったのです。

 ミイは、手足を動かしてもがきますが全く意味がありませんでした。そしてその体は、金髪の女の子の手の中に納まってしまいました。

 今のミイは、目の前の巨人の子からすれば二十センチほどの人形ぐらいしかありませんので、潰されてしまうかもしれず心臓がバクバクと大きな音を立て始めます。しかも肩から下をつかまれ、足が宙ぶらりんとなり地面についていない怖さでより倍増します。


「……いちご」


 幼げな言葉の中から出てきたその言葉を聞いて、ミイはゾクリとしました。いちごみたいに()()()()()()()この巨人は思っているのだとミイは感じ取ったのです。すると体が今まで経験したことのないほど震えあがりました。

 巨人の女の子はミイを抱えて、ミイが来た方向とは反対に走っていきます。

 その間、ミイは自分がどうなるのか思わず想像してしまいました。このままジャムのように鍋に煮られて食べられるのだろうか。それともケーキのように間に挟まれて食べられるのだろうか。はたまた、自分が普段食べるようにそのまま食べるのだろうか。もしかしたら、首だけを残して食べてしまうのだろうかと思わず頭だけが残った姿を想像してしまい、嗚咽と涙が止まりませんでした。

 想像すれば想像するほど悪い方向に考えが浮かび震えは止まらず、怯え切ってしまいもう顔がクシャクシャの紙のようになっていきました。

 まもなく、女の子が木組みの家の前に着くと、ミイはもう声が枯れ果てようとました。


「おかあさん、わたしこの子飼いたい!この子おっきく育てたい!」


 巨人の女の子は無邪気にミイを母親に見せながら何度も言います。ぐしゃぐしゃになったミイは涙で目の前がぼやけてしまい目の前で何が起こって言いるのかわかりませんでした。

 巨人の女の子の母親は、ミイの姿を見て女の子を叱りました。


「駄目です!人間の子を拾ってきちゃダメでしょ!」


 女の子は叱られたショックで、ウァンウァンと泣き出してしまいました。おっきな女の子と人形サイズの小さな人間の女の子が二重奏に泣き出すのですから母親はたまりませんでした。




 いつの間にか泣きつかれて寝てしまったミイは、目が覚めると野球場のように広いやわらかいベッドの上にいました。部屋には誰もいなくてベッドの上には枕と薄い布団が一枚あるだけでした。

 ミイはあの巨人の女の子が戻ってくる前に逃げ出そうと下を覗いてみますと、落ちて死ぬほどではありませんでしたが、下手をすると足をくじいてしまいそうなほどの高さがあり、ミイは尻すごんでしましました。

 すると、木の蝶番がギィという音が聞こえるとあの金髪の女の子が入ってきました。ミイは見つからないように枕の下に隠れましたが、先ほどまで無風だったはずなのに風が入り込んで枕がめくり上がり、姿が丸見えになってしまいました。


「見~つけた。起きてたんだ。あたし、リサっていうの。あなたのお名前は?人間さん」


 自分のことをリサといった女の子は屈託のない表情を浮かべながら、ベッドから覗き込み自己紹介をしてきました。ミイは、自分を連れて行ったリサの姿を後ずさりして怯えますが、勇気を出して自分を食べる気なのか聞きました。


「私を、食べる気なの?」


「食べないよ。あたし甘い果物の方が好きだし痛いことしたくないもん」


 そういうと、リサは顎をベッドの上に乗せると金色の髪の間からあるものが見えてミイは驚きました。リサの耳が人間のものとしては異様に横に長く尖ってましたのです。

 ミイは、その特徴的な耳に覚えがありました。そして、ポツリとその名前を言います。


「エルフ?」


「そうだよ。あたしはエルフ族だよ。人間さんは人間族っていうの?」


「私はミイよ。族っていうのはよくわからない」


「ふ~ん、そうなんだ」


 リサは少し残念そうに言うと、ミイは少し警戒心を緩めました。どうやら本当に食べる気はなさそうだからです。


「さっき、窓を開けたの?枕を飛ばすほどの風がビューと吹いたけど」


 するとリサは首を横に振りました。


「違うよあたしが風さんを呼んだんだよ」


 そういうと、リサは手をお椀のように形作ると、手の中からどこからともなく風が起こりミイの髪を乱しました。リサは、手に持っている風をミイの足元に向けると、ミイは風に乗って浮かび始めました。

 その風は、先ほどの森でミイが飛ばされた優しくも力強い風でした。


「ほら、今は小さい風さんの魔法しかできないけど。お母さんみたいにおっきくなったら色んな魔法使えるんだ。ミイは小さくなる魔法が使えるの?」


 風はゆっくりと収まり、ベッドの上に着地しました。エルフに魔法とまるでファンタジーの中に入り込んだような気分にミイは陥りました。でも、さっきの風の感覚は本物、夢でも何でもありませんでした。


「違う。私は魔法なんて使えないし、あなたがすっごく大きいだけよ」


「じゃあ、ミイは魔法が使えない小人族なんだ。じゃあいつも危ない目にあうんじゃないの?」


 小人族という単語ができてきましたが、リサからしたら自分はそうかもしれません。あの高層ビルほどあった大木やミイが見ていた草花も、リサからすれば普通の木々や草なのだから。


「危ない目には合ってないよ。でもこのそばかすでいじめられは、している」


 すると、リサは首をかしげました。


「なんで?だって――」


 リサが何か言おうとしたとき扉の向こうから女性の声が聞こえました。


「リサ、お風呂湧いたから人間さんと一緒に入りなさい」


「は~い」


 リサが返事した途端、ミイのスカートを脱がし始めました。ミイは慌ててスカートを脱がされることに抵抗してスカートを上に引っ張り上げます。


「ちょっと、何するの!?」


「だって、お風呂入りなさいってお母さんに言われたから。ミイちゃんの顔も服も泥だらけだし入らないと」


 確かに、ミイの鼻の頭には泥がついていて、服もあの穴を通ったときの土がついていて汚れていました。リサもワンピースのすそあたりが泥で汚れていました。

 けれども、大きさが違うとはいえ他人に服を脱がされるのは恥ずかしかったのです。


「じ、自分で脱ぐから!」




 お風呂は、リサ二人分は入れるほどの大きさなのですがミイにとってはプールほどの大きさがありました。お風呂に浮いていたハーブはタペストリーみたいに大きく、ミイが乗れば浮くと思えるほどでした。

 ミイがお風呂に入ると底が深く一瞬溺れかけましたが、とっさにリサがミイを助けたので事なきを得ました。ミイはそのままリサの手の中でお風呂に入ることになりました。


「ミイちゃんってあたしと変わらないよね。大きさが違うだけで肌も同じでぷにぷにしているし、髪もいい色しているし」


 ミイは、最後の言葉に疑問に思いました。ミイの髪は、漆黒と思えるほどの黒髪でかわりばえしないもので、おまけに艶もそんなにないものだと自分でも理解していました。


「全然違うよ。私の髪なんて普通だし、それにそばかすがあるからゴマだなんていじめられているし」


「なんで?それ()()()()()()()()()()()


 そのとき、ミイは森でリサが言ったことをがようやく理解できました。あの言葉は、自分が美味しそうでなく純粋にいちごに似ているという意味だったのです。

 でも、自分が可愛いとは一度も思えませんでした。それよりもリサの方がもし自分と同じ大きさだったら間違いなく可愛いと思えました。髪の一本一本が透き通るような金髪にツルツルのゆで卵のようにきれいな肌間違いなくリサの方に分があります。


「リサの方がきれいに決まっているよ。きれいな金髪だし顔もニキビとか何もないし」


 リサは、顔の半分を湯の中に沈めると口でブクブクと気泡を出しながらしゃべります。


「え~、嘘だ。あたしみんなから髪の色が薄いとか変な耳とかっていじめられているもん」


 ミイは「ホント?」と尋ねるとリサは首を縦に振ります。ミイはどうしてリサのような可愛い子が嫉妬でないいじめを受けているのだろうと思いましたがそれでもある言葉が頭によぎりました。


「おんなじだね私たち」


「おんなじだ」


 おんなじ悩みを抱えている。体の大きさやできることも異なるけれど、共通の部分があることでミイの気持ちは少し晴れました。

 お風呂から上がると、ミイの服が用意されていました。それは、見た目からして手作り感がある赤色のドレスのような服で、しかもちょうどミイのサイズに合ったものでした。


「これね。私が持っているお人形さんの服なの。お母さんが作ってくれたんだよ。もう遅いし、一緒に寝よ」


 部屋の大きな窓を見上げてみると、太陽の光が一つもないほど真っ暗な光景が外にありました。ここに来てからずいぶん時間がたったのだなとミイは思いました。

 リサは、ミイがベッドから落ちてしまわないように壁側に寝させました。そして、ランプの灯りを消すとあっという間に部屋が暗転しました。リサによると、これもリサの母親の魔法によるもので、部屋がまるで昼間のように明るくなる魔法らしいのです。

 ミイが、目を瞑って眠ろうとしていた時、リサが呼びかけます。


「あたしね。ミイちゃんを見つけたとき、もしかしたらあたしと同じ大きさに成長するんじゃないかなって思ったんだ。そうすれば私と一緒に遊べるかなと思って」


「遊ぶ友達いないの?」


「うん。この辺あたしと同じエルフ族もいないし、みんないじめてくるからいつも一人で遊んでいるの」


 ミイはここまで同じだと、リサがまるで自分のことのように思えてしまいました。外に出ればひとりぼっちである自分の姿と同じ。けど、容姿のことでいじめられるからだからどうしようもない。それは、絶対に変えることができないもの。そして、自分を生んでくれた両親を否定してしまうことだから相談できないから。

 すると、瞼の裏に母親の姿が浮かび上がってきたのです。突然湧き出した感情に、ミイはリサの服をぎゅっと握りました。


「……お母さん」


 思わず、ミイは母親のことをつぶやいてしまいました。そして、頭の上に柔らかな感触が伝わりました。


「ごめんなさい。ミイちゃん」


 そのことが耳に届くと、いつの間にかミイの意識はふっと闇の中へ消えてしまいました。




 翌日、リサに送られてミイは穴の中へ戻ることができました。ですが、家に帰って来た時ミイは両親にものすごく怒られました。そして、学校以外で外に出ることは許されませんでした。

 ミイはまた、いつもの運欝な日常に戻ってしまいました。彼女が一日いなくなったことを心配するクラスメイトはなく、彼女に対するいじめは相変わらずでした。

 慣れているはずなのに、悲しさがあふれ出てしまっているのです。その原因がなぜだかわからず、外を見ると窓ガラスに自分の頬に一つの水滴が映っていました。

 ある日、ミイの母親が大慌てで家を出たときのことです。あまり時間がなかったのか、ミイの母親は化粧台に乗っている化粧品一式を片付けずに出かけてしまったのです。家でお留守番していたミイは、ふと出来心で化粧道具を触りました。

 口紅、香水、いろんなものを触っては少しだけ自分の顔につけました。そして、背の低い円柱の箱に入っていた白いパウダーを顔につけて目の前の鏡を見てみますとミイは目をぱちくりさせました。なんと、ミイのそばかすが白パウダーにすっかり隠れて消えてしまったのです。パウダーを塗った部分は肌よりも白くなってましたが、それでもいじめの原因となっていたそばかすはなくなったのです。


「これをつければ、私はもういじめられなくなる」


 もう思って、パウダーをそばかす全体につけようと手を動かしたとき、鏡に映った自分が涙を流しているのです。

 どうしてだろうと、ミイは思いました。別にこんなそばかすいらないはずなのに、いじめられていた元凶のはずなのに、どうしても涙はそれに抵抗しようとパウダーを流してしまうのです。

 けどひとつだけ、ひとつだけあることがよぎっていたのです。自分のそばかすを褒めてくれたリサの言葉とあの場面が鮮明に蘇ったのです。あの温かなお風呂場で、自分よりもきれいなリサが自分を褒めてくれたことが、

 もし、これを消せば以前の私という者は引きはがせるけど、リサとの思い出も引き離されることになるのです。いじめられていた期間の方が長いはずなのに、リサとの思い出の方がとても長く感じていたのです。それは我が身を引き裂くような感じにも思えました。


「大丈夫、きっとリサはわかってくれるよ」


 ミイはそう鏡の前の自分に向かって言い聞かせました。けど、涙はそれを止めようとしません。




 外出禁止令が出てから一月がたった時には、よく雨が降る季節になりました。そして、ようやく外出禁止令が解かれることが許されました。

 学校が休みの日にミイは、リサに自分の姿を見てほしい一心であの穴の中へ再び入りました。ミイの顔には白いパウダーを肌に違和感がないように塗っているのです。穴を抜けると、そこにはあの花園がありました。

 花園のほうも先ほどまで雨が降っていたのか、灰色の空をしていて草花に雫が葉の上に残っていて地面もぐしゃぐしゃの泥んこになっています。足を踏むごとに泥が跳ねて服が汚れていきますが、ミイは気にせず土の崖を登ります。

 上ったところには、リサも人影さえもありませんでした。ミイは、リサに会いたいために木組みの家に向かおうとしました。ミイは森の中を歩き始めますが、周囲と比べて人形の大きさのミイにとってそれは大変な苦労ものです。だいぶ歩いたと思ったのに景色が全く変わらないのです。

 すると、多くの草を分けるような物音が聞こえ、リサが来たのだと思い音のした方へと歩き出します。ですが、そこにいたのはリサではありませんでした。

 それは、土気色の肌にぼさぼさとした黒髪で起伏の多い肌を持つトロールの男の子でした。背はリサよりも大きく腕も太くあり、ミイは心臓がドクンと大きな音が一つ鳴りました。

 男の子は、ミイを力加減せずにつかんだので肺の中の空気が一気に口から吐き出され(むせ)。トロールの手は、顔と同じく起伏があり固い感触がありました。


「へ~、人間のメスか。こいつは初めてだな」


 トロールはそういうと、舌なめずりして口を大きく開きました。ミイはこれから起きることを理解したくないのに頭が警告を発してしまいます。今自分は本当に食べられるのだと。


「なんだ?雨か?」


 それは、ミイの涙でした。そしてミイは思いの限り叫びます。


「リサ!助けて!」


 いよいよ、体の半分が口の中に入りミイの体を二つにしよう不揃いの歯が降りようとします。ミイは目を閉じて、祈りました。もう一度リサと会いたかったと。

 その時でした。ミイの体を吹き飛ばすほどの突風が吹き、少年の手から離れて空を舞いました。その突風は、ミイが以前感じた優しくも力強い風でした。でも、ひとつだけ違います。必死に守ろうとする意志が感じられていたのです。

 そしてミイは、あの懐かしく柔らかな感触のある手の中に入っていきました。


「ミイちゃんを食べちゃダメ!!」


 リサは歯をむき出しにして激昂していました。ですが、トロールは悪びれませんでした。


「よお、のっぺらぼう。自慢の風を起こして俺に嫌がらせか?」


「のっぺらぼうじゃないもん。目も鼻もあるもん!」


「なんの特徴のない顔なんだかのっぺらぼうで十分だ。おまけに変な耳、お前なんて気持ち悪いんだよ。ほら、その人間をよこせよ。久しぶりに食える今日の俺のおやつなんだよ」


 それを聞いて、ミイは体が震えました。行方不明になった人はみんなあのトロールに食べられたんだとわかったのです。

 ですが、リサはミイを押しつぶさないように腕の中に押し隠します。


「なんだ、お前人間を飼うつもりかよ。やっぱ変な顔には変な生き物を飼うんだな」


 飼う。その言葉にミイはリサが放った言葉を思い出しました。リサはミイを飼うと言ってたのです。もしかして、リサは自分をペットのように思っていたのかと疑心しました。


「違うもん。ミイちゃんは、あたしの顔をきれいだって言ってくれたもん!私よりも可愛い顔しているのに、それでもミイちゃんはあたしを褒めてくれた大切な、()()()()()!」


「ごちゃごちゃ言ってねえで、寄こせ!」


 トロールは、足元に落ちてあった石をリサに向けて投げつけます。リサはそれをかわして逃げ出します。後ろから石が何度も飛び交い、地面が泥になっていて足を取られますが、それでもリサはミイに石が当たらないように懸命に走り続けます。

 リサは、後ろを振り返り足元に向かって手をかざします。リサの手から風が起こり、地面にある小さな石たちが風に運ばれてトロールに向かって飛んでいきます。これにたまらないと思ったのかもうトロールは追いかけて着ませんでした。

 ミイが安心したのもつかの間、突然リサが倒れてしまったのです。腕の中から這い出たミイが見たのは、太もものあちこちが青く変色し、背中には服の上から血がにじみ出てもいました。おまけにせっかくの金髪もツルツルの肌も泥に汚れて無残な姿になっていました。

 ミイはリサを介抱するために呼びかけると、リサは弱弱しい声でミイに謝ります。


「ごめんね、ミイちゃん。あたし死んじゃうかもしれない。だから謝らなきゃ。あたしね最初にミイちゃんを見つけたとき、この子を飼おうって本当に思ったの。でもお話とかしてわかったの、ミイは私とおんなじだって。なのにあんなこと言ってごめんね」


 ミイはリサの本心を聞いて自分が恥ずかしく思いました。リサは本当に自分のことを友達だと思ってくれていたのです。


「大丈夫、絶対に助けを呼んでくるから」


 ミイは、助けを呼ぶためリサの家を探しに行きました。しかし、ミイの小さな体では、どうしても前に進めません。景色も変わらず、おまけに足元が泥濘何度も転んでしまいます。けど、ミイは立ち上がり走り出します。足がガクガクになり服の色が見えなくなるほどにながらも、ようやく見覚えのある木組みの家が見えてきて、もうひと踏ん張りです。

 ようやく扉の前についてドアをたたきますが、音が小さいのか誰も出てきてくれません。

 そこで外に出してあった箒を倒して窓によじ登り、木の窓をドンドンと強く叩きます。すると、窓が開き中からリサと同じ美しい金色の髪をした女性が出てきました。


「ミイちゃん?どうしたの?」」


「リサのお母さん!リサちゃんが、リサちゃんが!」


 リサの母親は、ミイに案内されてリサの下へ向かいました。母親が、怪我をしている部分に薬を塗って手当を始めます。リサは約束通り助けを呼んできてくれたミイに向かってお礼を言ったあと一言付け加えます。


「やっぱり、ミイちゃんはそのいちごみたいな顔が一番素敵だよ」


 リサに言われたとき、指で自分の顔を触るとそばかすを隠していたパウダーは泥ですっかり取れてしまっていました。


「リサちゃんだって、そのさらさらの金髪ときれいな肌が一番素敵だよ。だから一緒にお風呂に入ってきれいにしよう、ね」




 週があけた月曜日、ミイは教室のドアを開けました。そこにはいつもミイをいじめる男子たちが待ち構えたように一斉にミイを罵ります。でもミイは、臆することもなく着ている赤いドレスのような服をぎゅっと握り締めます。


「やーい。ゴマっかすがやって来たぞ」


「私はゴマじゃないもん。人間だもん。それに私のこれ、いちごみたいで可愛いって言ってくれる友達もいるもん」


 ミイの反論に男子たちは、とっさの嘘だと思いあざけ笑いました。


「うっそだ~。そんな奴いるのかよ?」


「いるわよ。けど、あなたたちがその子を見たらきっとひっくり返るわ」


 ミイが自信満々に答えたので、ミイをいじめてくる男子たちは顔を見合わせました。 そして、ミイは涼しい風を取り込むために開いている窓の外に咲き乱れているひまわりを見てあることが思いつきました。

 その放課後、ミイは穴の中を進みます。その際、腕の中にあるものをつぶさないように背中が土の壁でずりずりと擦れていましたが気にしませんでした。

 いつもの花畑に着くと周りの草木は久々に出てきた太陽に向かってドンドンと上に登っているかのように成長していました。そして、持っていた笛を鳴らすと優しく力強い風がミイを土の壁の上へと運びます。

 そして、風がどんどんと上昇していくとそこに現れたのは、白シャツにオーバーオールを着て、透き通るような金髪に横に尖った耳を持ちきれいな肌をしたリサの姿が見えました。


「ミイちゃん、その黄色い花は何?」


「これはね、ひまわりっていうの夏に咲く大きな花よ」


 ゆっくりと風が収まるとミイは、リサの掌の中に包まれます。そしてミイはリサにその花言葉を教えました。

 それを聞いたリサは。


()()()()()()()()()()()()()()()


 二人はひまわりのようにパカッと大きな笑顔になりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 巨人と人間の子が仲良くするという設定とかがいいと思いました。 いじめられっ子の成長という感じもあって良かったです
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