ファイルNo.2 真夏の夜の夢 39
洗練された物腰と人を引きつけてやまない何かを持つ綾瀬と、若さとそれに不似合いな落ち着きを身につけた愛美のカップルには花がある。
自分達こそ選ばれた人間だと思っている愚かな連中の中で、本当に選ばれた人間がどういうものかを教えてやれるだろう。
目立つこと間違いなしだ。
ただ、そういう場所に綾瀬は出入りはしていない。
自分の身体的欠陥になんらかの拘泥があるのか、彼は外に出ることを好まない。
幾ら身体機能の異常を人に悟らすことはないと言っても、サングラスを外すことはできないのだから。
「あの人らしいですね。高い服を女性にプレゼントするのは、脱がす為だって」
紫苑がセオリーを口にすると、衣装を目の前にかざしたり離したりしていた愛美は、少しその意味を考えていたが、
「さらりと凄いこと言わないでください。紫苑さん」
と、真顔で怒った。
微妙な年頃なのを紫苑は忘れていた。私の個人的な意見ではなく、一般にはそう言いますからと失言を取り繕って、キッチンへと避難する。
「巴君、こないね。しょうがないか。まだ小さいんだし」
愛美は、ベルベットのような質感の薔薇の花弁を指先で弄ぶ。血の色のような暗い赤。
今日の夕焼けも、やけにくすんだ赤だった。
*
沈みゆく太陽を背中に負う形で、巴は重く感じる足を淡々と交互に出していた。
まるで烙印を押された追放者の足取りで、逆さにした花束が大地と繋ぎとめようとするかのように腕を引っ張る。
影は巴の前にある。
その時、巴の影に数人の影が重なった。巴は無言で振り返る。
巴は逆光に目を細めた。
三人。高校生ぐらいだろうか。内の二人は、人の目など気にせずに、煙草をくゆらしている。
大人ぶってそうすることが粋だと思っているのだろうが、似合わないにもほどがある。
銜え煙草一つにしても中身が伴わない人間は、その幼さを強調して見せる。
巴には、次の展開は読め過ぎるほどに単純で、
「ボクさぁ、ちょっとお金貸してくんない」
と言われて回りを囲まれた時は、思わず笑いそうになった。
巴は眼鏡を押し上げつつ、
「こんな子供から金を巻き上げようなんて、あなた達は恥ずかしくないんですか?」
と、冷ややかに言った。
*
東大寺は時計を見て、フッと肩を竦める。
「もうちょっと、ガキらしく振る舞やええねんけどな、あいつも」
可愛げがないと、東大寺が付け加える。愛美は、肘で東大寺を突いて、軽く睨んだ。




