ファイルNo.2 真夏の夜の夢 37
紫苑や東大寺が、愛美の誕生日を一緒に祝ってくれると言った時も、みんなで食事をしようという程度だと思っていた。
みんなと言っても、それこそ限られているが。
小学生の頃は、毎年友達を呼んで誕生日会を開いてもらった。
ちらし寿司やフライドチキン。ごてごてしたクリームたっぷりのイチゴのケーキ。
母親の笑顔、まとわりついてくる弟。
私立の中学に行ったノンちゃん。幼稚園から中学まで腐れ縁続きのアッコ。仄かな思いを寄せていた引っ越ししたソウ君。
もうみんな失ってしまった。
紫苑は、今日はイタリア料理のフルコースだと言って、マリネ用の魚を捌いたりスパゲッティーを茹でたり、ピザ生地を用意したりと忙しそうだった。
もう殆どが出来上がっていて、盛りつけられるのを待つばかりとなっている。
愛美は手伝おうかと言ったが、主賓だからという理由で(実際は違う可能性が高い)お断りされてしまった。
愛美は東大寺から贈られたぬいぐるみを、ソファに座らせる。
昔持っていたお気に入りのくまさんは、炎の中に消えた。クリスマスに父親が買ってくれたものだった。
ドアチャイムの音がした。愛美と東大寺が顔を見合わせる。
時計を見ると六時前だ。
「巴君、来てくれたんだ」
愛美と東大寺が、玄関に向かう。
扉を開けた先には、薔薇の花を抱えた綾瀬の秘書だった。社長からだと言って、愛美に紙袋と花束を差し出した。
――お誕生日、おめでとうございます。
「クラディス、寂しがってるでしょう?」
愛美の問いに西川は、奇麗な口紅の唇を、微笑みの形にした。
残っていた最後の子猫を昨日、愛美は綾瀬から譲り受けて、桜台付属高校のクラスメイトに上げたのだ。
最初は子猫達を嫌っていたクラディスも、一番懐いていた病弱げな貧弱な子猫には愛着が湧いたようだった。
猫を大事にしてくれそうな子だとクラディスに説明したが、彼女は子猫を綾瀬の寝室に隠して愛美に近付かせようとしなかった。
結局クラディスには諦めてもらったが。
西川は、
「いいえ、気にしてないふりをしています」と答えた。
東大寺が可愛げのない奴と毒づく。
クラディスは母性本能が強いのだろう。
我が侭で子供嫌いなところはあるが、自分の庇護を必要とするものには、深い愛情を見せる。
巴や綾瀬にも、自分がついていなくてはと思っているらしい。




