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ファイルNo.2 真夏の夜の夢 36

 サイドシートを開けると、抱えるほどの薔薇の花束と大きな紙袋を取り出した。紙袋は、デパートのではない。

 真っ赤な洒落た紙袋は、ブランド店のものだろう。

 誰に渡すものか、送り主が誰かも、考えなくとも分かる。

 巴は、思わずビルの陰に身を潜めて、西川の視線をやり過ごすした。西川は巴に気付かなかったようだ。

 

 何を隠れることがあるのだろう。

 巴は自分の買った花束が、いかにもみすぼらしく見えた。

 そのカラフルな花束の方を、どれほど愛美が喜んだかは、分からない。

 

 西川は迷いのない足取りで、マンションの入口に消えた。巴は、逃げるようにマンションから背を向ける。

 文字通り逃げ出したのだ。

  *

 愛美は、くまのぬいぐるみを抱えて、ソファに座って写真を撮ると言って聞かない東大寺に付き合っていた。

 二人で顔を寄せ合うようにして、東大寺が上方に向けて垂直に伸ばしたレンズに微笑とピースサインを向ける。

 東大寺は、さりげなく愛美の肩に腕を回している。

 今の時間をデータに記録すると、東大寺は抱いていた愛美の肩を離してソファを立った。

 キッチンのカウンターによりかかって、ファインダーを覗く。

「紫苑の、おさんどん姿も撮ったろうか?」

 東大寺は部活帰りそのままのジャージで、三十分ほど前やってきた。

 紫苑に汗臭いと文句を言われ、シャワーを浴びて、今はすっきりした顔をしている。

 紫苑は、忙しく料理の支度をしながら、

「モデル料を戴きますよ」と答えた。

 紫苑は、白のパンツに水色のサマーセーターと、相変わらず雑誌のグラビアから抜け出てきたような格好をしている。

 そんな服が嫌味でなく似合うのは、紫苑が日本人離れした彫りの深い顔と、抜群に均整のとれたプロポーションをしている所為だ。

 中性的な美しい顔は、神の最高傑作と評してもおかしくはない。

 栗色の腰まである髪は、邪魔にならないように、三つ編みにしていた。

 紫苑は、どんな服でも着こなすが、エプロン姿も板についている。

 東大寺は、その写真を女だと偽って売りに出してもいいならと、軽口を叩いた。


 愛美が家に帰った時には、紫苑が既に厨房に入っていた。

 紫苑が立ち働いているとシステムキッチンは、厨房の如き様相になる。

 もう高校生だし、パーティーと言うほど大袈裟なものはいいと紫苑には言ったが、彼はこんな時ぐらいしか腕が振るえないからと言って、材料も大量に仕入れてきた。

 大量の食材は、東大寺の腹の中に収まることは想像に難くない。

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