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ファイルNo.2 真夏の夜の夢 34

 愛妾(愛人)だの平安時代だの武将だの言っても、小学一年には分からないだろう。

 ただ、初めてインターネットに触れて知り合って間もなく、あの男はその話をしてくれた。日本史に興味があるとは、別に言っていなかった。

 高校の時の日本史の教師が、型破りな授業をするのが面白く、そう言う話だけは覚えているのだと言っていた。

 できることなら、巴もそんな教師に会ってみたいものである。

 教師に人間性は期待できないから、せめて変わり者でもいてくれれば、それなりに授業も楽しめるだろう。

 今の教科書中心の授業より、あの男が語ってくれた話の方がよほど興味深い。

 平安時代。雷に打たれて五人ばかり死んだのは、怨霊になった菅原道真が自分を陥れた政敵を、恨みを晴らす為に殺したのだということになっている話とか。

 他にも、破壊僧一休宗純の行状やら、新撰組芹沢鴨の暗殺話。

 戦後に現れたという、室町期の南北朝時代の大覚寺統(南朝)を始祖とする吹聴した熊沢天皇の話やら、歴史の教科書では語られない話をしてくれたそうだ。

 古臭い過去ばかり、やけに巴は思い出す。何を気にしているのだろう。

 巴はさりげなく聞いた。

〈トモエ>高校どこ?〉

 キクが上げた校名は、都内にあるさほど有名でもない、ランクも低い公立高校だった。愛美も、東大寺も仕事で行ったことはない。

 巴もどこ卒業かと問われ、すぐに思いつかなかった為、東大寺が通っている星成せいじょう西の名前を出した。

 スポーツで鳴らしている私立校だが、それほどランクは上ではない。巴にとっては過去の話だろうからと、キクはあまり深い突っ込みはしなかった。

〈キク>高校生活は楽しかった?〉

〈トモエ>まあまあ、としか言えないだろう。どうってことはない三年間だった〉

〈キク>そんなもんだよな。〉

 話はそこそこ盛り上がった。

 大した話はしていない。ゲームの話。家族の話。

 キクも一人っ子だが、祖母と同居しているという。最近ボケ初めてきたのか、何度も小遣いをくれるらしいが、一回につき百円なので、結局は二千円にも満たないという。

 ボケ始めているどころか完全にボケていて、キクが幼稚園児か何かだと思っているのではないか。

 口にはしなかったが、巴は久しぶりに腹を抱えて笑った。彼のおばあちゃんには悪いが。

 巴の祖父母は田舎に住んでいるが、ボケる兆しはなく電話の一つも寄越さなければ帰省もしないと、留守電に嫌味を吹き込んできたりする。

 嫁姑の仲は、最悪だ。

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