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ファイルNo.2 真夏の夜の夢 31

 それを言うなら、SGAも閉じている。社会と切り離されて。

 考えるときりがない。

 家庭、学校、友人。

 人はそんな小さな世界に縛られているし、支えなしでは生きていけない。何かを切り捨ててもどこかに繋がるだけだ。

 

 巴は、ためらいながらキィボードに指を走らせた。

〈オレは、今の状況をどう思ってるんだろう。考えたこともなかった。学校には行くもんだと思ってた。誰かに強制された訳じゃないけど、社会とか現状が無言の圧力をかけているから、それが当然なんだって思い込んでいた。夢を語れる奴は今の世の中には少ない。耳を傾けられる人間も。

夢か、夢。オレの夢は何だろう。就職して結婚して、それはオレの夢なのか。親の引いたレールなのか。

キクは、何でオレなんかにこんな話したんだい。オレだったら君のことが分かるから。それも、分かり合える奴同士で縮こまってるのと同じことになるんじゃないの?〉

 返事は五分とかからずに届いた。

〈それは分かってくれるからってのもあるし、赤の他人だからかもしれない。全然自分のこと知らない奴だから、何言っても平気みたいな。〉

 巴は、笑みを洩らした。思わず自然に笑みが浮いた。

 それでも何かが、巴の胸をチクリチクリと刺す。予感とでも言うのか。

 巴は、それから目を逸らし、ごく軽い気持ちでキクを誘った。確かめたいという気持ちがあったのかもしれない。

〈メールじゃなんだし、チャットで話さないか。キクが嫌ならいいけど。〉

 今度の返事は、少し間が空いた。

 巴は、ミネラルウォーターの封を切る。渇いた喉に流し込みながら、暗い部屋の中で無気質な光を眺めていた。

 夢を語る人。

 疑う必要はないのかもしれない。ただ信じられるもののない時代だから、下心を勘繰ってしまう。

〈俺まだパソコンもインターネットも初めて間がないんだ。二年のクラス替えで同じクラスになった奴に誘われて、パソコン部でちょっといじって興味持って、そんでやり始めただけだから、打つのが遅いんだよ。あんたはうまいから、タッチタイピングって言うの、できるんだろう。すぐ間違うし、うちのパソコン俺に似て頭悪いんだよ。すぐ馬鹿な変換するし。〉

 巴は何だか楽しくなってくる。

 伸ばしてくれる手を、ずっとずっと求めていたのだ。どれだけ否定しようとも。

 

 巴はそのタッチタイピングで、キィを見ずに画面に打ち出されていく文字を追っていった。パソコンをやり始めて、五年。

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