ファイルNo.1 パンドラボックス 9
乾ききらないペンキが、タラタラと落ちて画面を汚す。
それが一瞬にして赤に染まる。血のようだ。
画面は切り替えられ、弦楽器とパーカッションの激しい曲がBGMとして流される。
映像は、街の中を歩いていく一人の男を映し出している。
レザージャケットに、皮のパンツ、足元はワークブーツで固めている。
男は一つの建物に向かっている。
街の薄汚れた様子とは裏腹に、建物は大きく周りを威圧するようだ。建物の鳥瞰図が出る。
警視庁と、文字が出た。
建物に入った男は、開いたエレベーターのドアから自分の部署へと向かって歩いていく。
扉のプレートには、捜査第壱班と記されていた。
部屋に入った途端、目の前に人が立ち塞がった。コマンドが現れて、声を掛けられる。
アンジ。
それが彼の、いや自分の名前だ。
――お前に荷物が届いているぜ。爆弾だったりしてな。
同僚の顔がアップになる。男の顔には嘲りの色がある。
――爆弾じゃないことを祈るんだな。お前も巻き込まれたくはないだろう。
アンジのらしい、デスクに置かれたダンボール箱に焦点が合う。
ダンボール箱を開けると、中には鉄の箱が入っていた。鉄の箱を持ち上げ、ダンボールは床に落とす。中身は何だろう。
アンジは、鉄の箱の留め具を外し、蓋を開いた。
アンジは思わずウッと呻いた。
色鮮やかな色彩が飛び込んでくる。
赤やピンク。腐臭さえ漂ってきそうだ。
箱の中には、明らかに人間のものと思われる内臓や、身体のパーツが入っていた。
ダンボールの底に紙きれが一枚。
メモか何かを破りとったものに、乱暴な筆記具の線で、アルファベットが一文字だけ書きなぐられていた。
それは、Lと読めた。
*
愛美は久しぶりに長門を見た。同じ家に暮らしているのにも関わらずだ。
前に会ったのはいつだろう。五月の連休前だろうか。そうなると一月ぶりということになる。
ボディガードと、暗殺者という裏と表の仕事は、どちらも忙しいのか、殆ど家にはいないようだ。
いても愛美が気付かないこともある。
久しぶりに帰ってきた長門は、無精髭を生やし、疲労感の濃い顔付きをしていた。
シャワーを浴びようと風呂場に行きかけていた長門と出会った愛美は、思わずギョッとしたぐらいだ。
190㎝の長身を誇り、目つきは最悪で、黒ずくめのこの男を見れば、誰だって驚く(怯える)だろう。
ボディガードなんて職種についている分、さぞかし筋骨隆々に思われそうだが、長門は長身痩躯という感じだった。余分なものは、何も付いていない。