ファイルNo.2 真夏の夜の夢 27
宿題を終えると、明日の時間割りを揃えて、ランドセルに放り込む。体育は六月からプールだが、どうせ見学なので水着の用意は必要ない。
六時を過ぎても、まだ窓の外は明るい。
巴は窓の外を見るのが嫌いだ。
冬ならば暗くなれば住宅街の明かりが、オモチャの電球のように散らばっているのが見える。
家の明かりは家族の象徴のようで、巴は遮光カーテンでそれらを自分の部屋から締め出すことに苦心する。
SGAでケーキを食べたので、あまりお腹は空いていない。冷蔵庫にはレトルトのシチューが入っていた。夕飯はそれで済ませばいい。
その時、パソコンの画面にメールの着信を知らせる表示が出た。
キク。
巴は、パソコンを操作する。
〈件名:キクちゃんはないんじゃないの:
幼稚園児じゃないんだから。
本名はタカヒサなんだけど、間違われてキクって読まれて以来、それが定着したんだ。大学生も結構大変なんだ。親の脛ばっかり噛ってる訳じゃないんだな。
新作ゲームって、『双頭の系譜』? あれ結構話題になってるけど、俺はやっぱフェフスタのが面白いと思う。でも難しくって、ここ最近半徹状態で学校きつかったりして。
カテキョやったことあるんなら、あんたに頼もうかな。クラスは文理なんだけど、数学なんかからきし駄目でさ。だからって国語や英語ができるかと言えば、これがまた駄目。ああ。テストか。頭痛ぇ。
三年になったら苦労するだろうな。親は諦めてるけど、いけるもんなら大学は出たいよな。現役大学生からのアドバイス要、求ム。〉
巴は頬杖をついて、画面の文字を追う。
タカヒサ。当て字やキラキラネームで本来の漢字の読みから外れた名前も多いから、どんな字を書くんだろう。
三年になったらということは、三年ではない。クラス分けがあるなら二年生だろう。というと十六か十七。
近藤愛美の顔が浮かんだ。彼女も高校二年生だ。それを言うなら東大寺も同じか。
彼は浪人と留年で現在二年生。本来ならもう卒業している年だ。
愛美は、順当に進んで今は、桜台短大付属に通っていた。
これから当分は、愛美は仕事で常磐学園に通うことになるが。
〈アドバイスって言われてもな。オレも所詮三流大学の落ちこぼれだし。〉
別な意味での落ちこぼれではある。
社会不適応者。嫌な響きだ。
適応できない人間よりも、それを作り出す社会の方がよほど問題がある。
〈今の世の中、大学出ても仕事ないからな。二年先輩で今年卒業した人らでも、まだ就職決まんない人いるからな。〉




