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ファイルNo.2 真夏の夜の夢 19

 八階建てのマンションの最上階に行く手段は、このマンションの外壁に設けられたエレベーター以外にない。

 マンション内には、階段もあればエレベーターも二基あるが、八階に行くことはできなかった。

 建築基準法を踏まえて非常階段だってあったが、それさえも七階までしかない。

 火事や何かがあったらどうするのかと思うのは、余計なお世話だろう。

 八階は、マンションのオーナーが、ワンフロアを一人占めにしている。

 本当にいい身分だが、御大層な億ションに、なぜパークヒルなのかと首を捻りたくなるのも、いつものことだった。

 

 上にあがったままの箱を呼び戻す間、巴は背負っていたランドセルからA4サイズの茶封筒を取り出した。

 巴がSGAにきた時には、綾瀬は既にこのマンションのオーナーに収まっていたのだから、築五年ほどになるのだろうか。

 このマンションを建てるのに、どこから金を捻出したのかは、それは綾瀬以外、神のみぞ知るところだろう――神がいるとしての話。

 エレベーターを降りた巴は、真っ白に磨きたてられたフロアを横ぎり、ステンレス製のドアを引いた。鍵はかかっていない。

 施錠はしない。

 主義だそうだ。

 キッチンでお茶の用意をしていた秘書の西川に挨拶をして、巴は社長室のドアを開けた。

 

 思わぬ人物に会って驚いた巴は、ずり落ちそうになっていた眼鏡を、軽く指で押し上げる。

 アームチェアーに腰かけた綾瀬の側に、屈み込むようにして愛美が立っていた。学校帰りなのか、巴と同じように制服を着ている。

 二人は、何をしていたのだろう。

 もう一つ気が付いたことがある。部屋に、クラディスの姿がなかった。

 入ったことはないが、綾瀬の寝室か、それとも書斎にでもいるのかもしれない。

 ただ、忠犬そのものと言った顔で綾瀬の側にはべっていることの多いクラディスにしては、珍しかった。

 綾瀬が外に出したのだろうか。二人っきりで、一体何をしていたのか。

 巴の思惑など知りもせず、愛美はニコニコしながら手を振った。勘繰り過ぎだろうか。

 いや、大人なんて分かったものでない。

 巴が子供だと思って、何も知らないと思って、案外何をしているか分かったものでない。

 

 愛美は綾瀬の側を離れると、ソファにどさりと腰掛けた。夏服に衣替えになったらしく、衿とスカートがグレーのセーラー服が涼しげだ。

 巴は真っ直に綾瀬に歩み寄り、手にしていた茶封筒を渡した。

「学校、終わるの早かったんですか?」

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