ファイルNo.2 真夏の夜の夢 18
その後、会話は、フジタは若い男にしか興味がないんじゃないかといった(所謂同性愛者しかも少年嗜好という)妙な話で盛り上がっていく。
トモエとは、チャットルームで長い付き合いだから不思議ではないとして、なぜ新参者のメンフィスにメールを送ったのか、確かに謎だ。
次々と打ち出されていく会話を読み流しながら、巴は深い充足感を覚えていた。
ああ。やっぱりトモエがいるのはこの場所だ。
しかし、何かが喉に刺さった魚の小骨のように、ひっかかっている。
それが何かは、巴は努めて考えないようにしていた。
巴は、十二時近くまで起きていて、ネットに繋がっていた。キクから返信がくるかと思っていたが、その夜は結局何もなかった。
いかにも義務的で手短な文章に、相手は気分を悪くしたのかもしれない。
それならそれで、もう二度とあんなおかしなメールは送りつけてこなくなるだろう。
人とは違う。俺には分かる。
分かってたまるか。何も知らない癖に。
そう思う反面、キクがどんな人間なのか興味はあった。なぜあんなメールを寄越したのか、問い質してみたい気もする。
それができなくてよかったのか、よくないのか、巴にも分からなかった。
それだけだったならば、やがてそのことは、巴の記憶の片隅に埋没してしまっただろう。
だが何が引き合わせたのか、トモエはキクと深く関わることになる。
*
深まった緑が、目にも鮮やかな季節になった。
まだ梅雨は明けていないが、晴れていれば、少し早い夏を満喫することができる。
車窓を流れる人々の服装は、心を浮き立たせるような色が目立つ。雨が降れば降ったで、カラフルな傘で歩道は埋め尽くされるだろう。
電車の乗り換えの面倒と不特定多数の人の群れを敬遠して、巴はタクシーを使っていた。
いつものことだったが、どう贔屓目に見ても幼児にしか見えない巴に、運転手は疑惑に満ちた眼差しを向けた。
運転手は、声こそかけてこないが、ミラーでチラチラと巴を盗み見ている。胡乱そうな顔をしていた運転手も、マンションを見ると、ようやく要領を得たような顔をした。
小学生が持つには不似合いな万札も、それほど奇異には映らなかったらしい。
釣り銭を受け取ると、タクシーが走り出すのを待って、マンションに入ることなく、横手の路地に足を踏み入れた。
十センチほど凹んだ窪みに、アルミのドアが収まっている。
両開きの、二、三人乗れば重量オーバーになりそうな、小さなエレベーターだ。こんな所にエレベーターのドアがあるなんて、誰も思わないだろう。




