表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/328

ファイルNo.2 真夏の夜の夢 18

 その後、会話は、フジタは若い男にしか興味がないんじゃないかといった(所謂(いわゆる)同性愛者しかも少年嗜好という)妙な話で盛り上がっていく。

 トモエとは、チャットルームで長い付き合いだから不思議ではないとして、なぜ新参者のメンフィスにメールを送ったのか、確かに謎だ。

 次々と打ち出されていく会話を読み流しながら、巴は深い充足感を覚えていた。

 ああ。やっぱりトモエがいるのはこの場所だ。

 しかし、何かが喉に刺さった魚の小骨のように、ひっかかっている。

 それが何かは、巴は努めて考えないようにしていた。

 

 巴は、十二時近くまで起きていて、ネットに繋がっていた。キクから返信がくるかと思っていたが、その夜は結局何もなかった。

 いかにも義務的で手短な文章に、相手は気分を悪くしたのかもしれない。

 それならそれで、もう二度とあんなおかしなメールは送りつけてこなくなるだろう。

 

 人とは違う。俺には分かる。

 

 分かってたまるか。何も知らない癖に。

 

 そう思う反面、キクがどんな人間なのか興味はあった。なぜあんなメールを寄越したのか、問い質してみたい気もする。

 それができなくてよかったのか、よくないのか、巴にも分からなかった。

 それだけだったならば、やがてそのことは、巴の記憶の片隅に埋没してしまっただろう。

 だが何が引き合わせたのか、トモエはキクと深く関わることになる。

  *

 深まった緑が、目にも鮮やかな季節になった。

 まだ梅雨は明けていないが、晴れていれば、少し早い夏を満喫することができる。

 車窓を流れる人々の服装は、心を浮き立たせるような色が目立つ。雨が降れば降ったで、カラフルな傘で歩道は埋め尽くされるだろう。

 電車の乗り換えの面倒と不特定多数の人の群れを敬遠して、巴はタクシーを使っていた。

 いつものことだったが、どう贔屓目に見ても幼児にしか見えない巴に、運転手は疑惑に満ちた眼差しを向けた。

 運転手は、声こそかけてこないが、ミラーでチラチラと巴を盗み見ている。胡乱そうな顔をしていた運転手も、マンションを見ると、ようやく要領を得たような顔をした。

 小学生が持つには不似合いな万札も、それほど奇異には映らなかったらしい。

 釣り銭を受け取ると、タクシーが走り出すのを待って、マンションに入ることなく、横手の路地に足を踏み入れた。

 十センチほど凹んだ窪みに、アルミのドアが収まっている。

 両開きの、二、三人乗れば重量オーバーになりそうな、小さなエレベーターだ。こんな所にエレベーターのドアがあるなんて、誰も思わないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ