ファイルNo.2 真夏の夜の夢 16
来年は、公立中に進学が決まっている巴だが、大学は東大合格、まず間違いなしと目されていた。
巴は自分のやっていることが急に馬鹿らしくなり、書いた返事は全部消去する。結局聞かれた隠しアイテムの入手法だけ手短に記して、送信するに留めた。
それだけで、ぐったりと巴は疲れる。
カヲルコに言った通り、トモエは七時過ぎからずっとチャットルームにいた。
八時三十分頃、サイファーが現れる。二十代後半の、フリーターと言うことになっていた。今現在は、ゲーム会社でバイトをしている。
それまで数人で話をしていたのだが、カヲルコはサイファーが来て暫くすると、眠いから風呂に入ってから寝ると言って消えてしまった。
〈サイファー>もしかしなくても俺、カヲルコに避けられてる?〉
〈エージ>なんかやったんすか。嫌われちゃうよーなこと。女子高生相手だと思って、ワイ○ツメッセージなんか送りつけてるとか〉
二十五才で恋人有り、デパートの従業員をしているエージが、そう言ってサイファーをからかった。
エージは、アネゴンやカヲルコ、ナオリン(ネットおかまらしいが)やユリっちなどの女性陣を口説くのを趣味にしている。
彼の方こそ、セクハラメッセージを送り付けそうな危険人物NO. 1ではないか。恋人がいるというのは嘘ではないかと、女の子達には陰で言われている。
だが巴が思うに、実際に会おうと言われた子はいないので、恋人に内緒でネットで遊んでいるだけなのかもしれない。
〈アネゴン>ゲーッ、最低。サイファーってそういう奴なんだ。知らなかった。確かにカヲルっちは、ちょっと可愛い系だけど。これだから男って奴は〉
アネゴンは、目玉の飛び出た愛嬌のある怪獣の名前からきているそうだ。勿論アネゴンは、女性だ。口がデカイので、学生時分につけられたあだ名だと言う。
短大を卒業してOL二年目ということは、トモエより一つ年上になる。性格はサバサバしていて、結構姉ご肌で面倒見がいい。
〈サイファー>何でそういう話になる訳。何か言ってやってよ、トモエ〉
カヲルコは、高校生ではなく専門学校生で、真面目そうな女らしいと、アネゴンから聞いたとメールに書いてきたのは、フジタだった。
アネゴン本人に、カヲルコのことを問い質してみたい気持ちもあるが、黙っておくべきかも知れない。他人の素姓など、ここでは意味をなさないのだから。
話を振られた巴は、キィボードを手早く叩いた。




