ファイルNo.2 真夏の夜の夢 15
あのゲームに出合って以来、ゲームのコントローラーを握るのが、怖くなった。
周到に張り巡らされていたとは言え、暗示にかけられ、巴は一度は銃口を自分の頭に向けようとしたのだ。
たかがゲーム。
パソコンのネットと同じかそれ以上に、バーチャル空間で別の人間として、別な人生を垣間見る、他人になりきることができる、日常から離れられる現実逃避の為の道具が、現実を浸食している。
ゲームでの死が、現実の死に繋がるなど、あってはならないことだ。ある筈のないことだが、現にそれが起こったのだ。
あの事件が、この時代に対する警鐘のような気がするのは、巴だけだろうか。
最近はゲームにも身が入らない。
余計に時間を持て余してしまうのがその理由だ。
キク。
高校生だと言うが、実際そうであるかは保証はない。
匂いが違う……か。それを言うなら、キクだって、今までトモエが相手にしてきた人間と毛色が違う。
一体、何者なんだろう。
インターネットをやっていると、嫌な奴や変な奴にも沢山出合うが、こんなことを書いてきた者は初めてなので、どうしていいのか分からなかった。
攻略法だけ書いて、後は無視してしまおうか。
キクは淋しいのかも知れない。誰かに構って欲しいのだ。
巴に似ているのは、誰かに相手にして欲しいと思っているところだろうか。いや、巴は人恋しくなんかない。
他人になりすまして、何も知らない奴らをパソコンの画面のこちら側で嘲笑っているのだ。
インターネットをするのは、そうしたお遊びの為だ。
そうだ。それ以外の理由なんかない。
巴は、キィボードに指を走らせた。
〈オレが他の奴と違う? 何言ってんのか分かんないな。もしかして君、学校で浮いてて友達もいないとか。それでオレと馬が合いそうだなんて言い出したとか。オレはただのオタクだよ。買いかぶられても困る。〉
切り口上過ぎて、相手に不快感を与えるだろうか。
途中の文を消去して、続きを打ち出した。
こんなところでもいい子の自分が顔を出す。
違う。
文を消したのは、トモエならこんな書き方はしないからだ。ただそれだけだ。
〈トモエは本名。名前じゃなくて名字の方。珍しい名字だから、の割りにはよく知られてる名前だけどね。知らないかな。鎌倉時代の木曽義仲の愛妾の巴御前って。知らない? 勉強しろよ。高校生。なんて、人のことは言えないな。オレなんか大学なんて、三流もいいところだし。〉




