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ファイルNo.2 真夏の夜の夢 7

 愛美と巴が、入院していた東大寺の許へ見舞いに訪れてから、まだ六日。

 一酸化炭素中毒という名目で、病院に運ばれた東大寺だが、精密検査の結果、脳に損傷などは見られなかった。

 後遺症もなく――それは当然なのだが、愛美としては、ゲームが東大寺の脳に与えた影響を心配していた。

 問題は、意識不明の間に落ちた体力だけだ。

 当分、病院で体力の回復に努めるようにと、医師からは申し渡されていたようだが、意識のある東大寺をベッドに縛りつけておくのは、至難の業だろう。

 十分な食べ物さえ与えておけば、東大寺の場合、病院にいなくとも体力は戻る。

 

 愛美はキッチンに向かうと、冷蔵庫を開け閉めし、棚の食料品の買い置きから、今すぐ食べられるものがあるかをチェックした。

「紫苑といや、何か食い物持ってきてって頼んだら、忙しくてそれどころちゃう言われたわ。愛美ちゃんの誕生日には、腕によりをかけて料理作る言うとったから、巴もそん時、来ぃ」

 東大寺の視線が巴を捉えたのは一瞬で、テーブルについた彼の視線は、後は始終愛美の背中に向けられている。

 学校や家だけでなく、時にはSGAにおいても、巴の存在は希薄になることがある。

 教師の目も両親の目も、巴を通り越して別なものを見ている。巴は、その度に自分が透明人間であるかのような気分になった。

 今もそうだ。

 巴がいてもいなくても関係ない。いや、自分などいなくてもいいのかも知れないと、いたたまれない気持ちになる。

「愛美ちゃん。特訓しゃんなんな」

 何を、とは東大寺は言わない。

 巴は、筆記具とノートをまとめ始める。食器棚から割り箸を出していた愛美が、

「リンゴの皮剥きですか?」

 ブスッとして言った。巴には、何の話だか分からない。

 巴は、ランドセルに荷物を放り込む。

 誰も巴が拗ねているとは思わない。

 巴が子供っぽく癇癪を起こすなど、巴を知る者は皆考えられないだろうが、幾らIQが200あろうが、年の割りに大人びた考え方を持っていようが、巴はまだ十一才の子供なのだ。

 素直に感情が表現できない巴だが、心の底では愛美のことを姉のように慕っている。

 愛美との時間に東大寺が割り込んだことで、まるで、気に入りのオモチャをとり上げられたような苛立ちを覚えていた。

 東大寺が悪いのではない。

 それが、巴の子供染みた嫉妬だということぐらい分かっているのだ。分かっているが……。

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