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ファイルNo.2 真夏の夜の夢 6

 塾に重きが置かれると共に、学校や教師の有り方も変わった。いや、学校や教師が当てにならないから、塾や家庭教師が持てはやされるようになったのか。

 こんなことを言うと、卵が先か鶏が先かといった議論に終始してしまいそうなので、深くは追求しない。

 勿論、押しつけられた上昇志向が、鬱屈した子供達から闇を引きずり出したのも確かだが、昔はよかったなんて言葉だけで片付けられる問題でもなかった。

 いつだって、問題ならあった。学校にだろうが家庭にだろうが、社会にだろうが。

 だからと言って、学校がなくなってしまっていいとは、愛美も思わない。ただ、学校の存在意義が薄れているのは、どうしようもない事実だ。

 

 そこに、玄関の扉が開く音がする。巴と愛美は、反射的に振り返った。

 愛美が、巴の鉛筆を握った右手に軽く手を触れさせる。

「紫苑さんかな。だったら、夕飯食べていきなさいよ。いいでしょう?」

「紫苑さんが作るんだったら、いいですけどね」

 憎まれ口を叩く巴に、愛美はパッと手を伸ばすと巴の鼻をつまんだ。

「また、そういうことを言うか」

 はにふるんですかと、巴が抗議の声を上げる。小犬のようにじゃれあっているところに、登場したのは、しかし紫苑ではなかった。

 Tシャツとデニムのいつもの普段着の少年は、紙袋一つという身軽な出立ちだった。

「おう、巴。久しぶりやん」

 能天気そうな第一声に答えるべく、巴は微かに頭を下げて見せた。愛美は驚いて、口をあんぐりと開けている。

 幽霊でも見たと言えば、言い過ぎだろうが、今この場所に現れる筈のない人間であることに変わりはない。

「退院、まだじゃなかったんですか?」

 東大寺は、あっさりと言った。

「逃げてった。綾瀬のアホ、あいつ絶対俺を殺す気やで。痩せこけて、すっかり筋肉落ちてもうたわ」

 東大寺は、少し肉の落ちてしまった腕をさすっている。数日前まで衰弱死の一歩手前までいっていたとは到底思えない。

 元々浅黒い肌だが、ずっと屋内に足止めされていた為、まだ日に焼けてはいなかった。

 巴は、それとなく自分のか細い白い腕を庇うようにした。ほんの少し開きかけていた巴の心が、スッと音を立てて冷えていく。

 元々、表情が乏しい為、愛美には巴の心の動きは、理解できなかった。

「紫苑さんの手料理にありつけないなら、僕は帰ります」

 巴がそう言うと東大寺は、思い出したと言わんばかりに、何か腹の足しになるものを出してくれと愛美に頼み込んだ。

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