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ファイルNo.2 真夏の夜の夢 5

 テーブルに置かれたコップには、冷蔵庫に作り置きされていた麦茶が半分ほど入っている。

 愛美は、コップに目を止めると、ちょうだいねと言って、巴がいいと言う前に口に持っていった。そして、ぬるいと文句をつける。

 巴は、そんなことは知ったこっちゃないと、漢字の書き取りを続けた。先ほどまでは、全然手につかなかったのが嘘のようだ。

 俯いて黙々と宿題をしている巴に、愛美は話しかける。

「ほら、外国だったら飛び級だとか、十才ぐらいの子でも大学に行ける訳でしょう? もちろん巴君みたいな天才少年に関してで、私には縁のない話だけど」

 愛美の屈託のない声を聞きながら、巴は嫌味にはならないように気を付けて言った。

「でも、お姉さんも、成績いいじゃないですか?」

 顔を上げると、愛美は笑いながら手をパタパタさせた。

「私は普通だわ。何の取り柄もない、ただの女の子。それにしては、物騒な物を振り回して怪しい仕事を熟してるけど」

 愛美は、パントマイムよろしく手の平を返すと、匕口を空中から取り出して、再び宙へと消した。

 茶目っ気たっぷりに笑って見せる。

「これじゃあただの手品師だね」

 巴ももう驚かない。

 それこそ、巴の方が普通の人間だ。いつか、綾瀬に言われたことがある。

 天才少年なんて、掃いて捨てるほどいるが、特殊な能力をもった人間にはそうそうお目にかかれたものではないと。

 綾瀬自身、陰陽師の家系などという特殊な境遇に生まれつき、特別な力を持っている。愛美もまた、普通の人間にはできないことができる。

 巴は、SGAにおいては、自分一人がただの子供で、普通の人間だということを、いやがうえにも思い知らされる気分だ。

「ここは日本で、義務だから。仕方ないです」

 巴は、センテンスだけの短い言葉を返したが、愛美にはちゃんと通じたようだ。

「そうよね。教育の義務とは、親が子供に教育を受けさせる義務で、子供にあるのは権利だって言うけれど、ただの建前だわ。子供は与えられたものを、ただ大人しく消化していくことを求められている。結局は、押しつけられた勉強だものね。学校でしか学べないことなんて、今の学校じゃたかが知れてるわ。サラリーマン教師とカリキュラム化された、詰め込み受験用の学校じゃあね」

 塾。受験。学級崩壊。

 社会問題となっている事象は、社会や時代や大人達が求めた結果ではなかったか。

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