ファイルNo.2 真夏の夜の夢 4
前日のファイルNo.2 真夏の夜の夢 3を読んで下さった方、申し訳ないです。
一話分抜けていました。
昨日の分が、本来の四話目でした。
入れ直したので、済みませんが三話目を読んで下さると、ありがたいです。
綾瀬は、部屋を出ていこうとしている巴を、何げなく呼び止める。
「そうそう。今度、犬を飼うことになったんだ。頭のいいゴールデンレトリバーを一匹。お前も時々、散歩に付き合ってやってくれ」
綾瀬は万年筆を放り出すと、深く安楽椅子に身をもたせかけた。
「時間外労働の報酬は高くつきますよ」
巴は、生意気な口を聞くと、扉を閉めて出ていった。
巴は、綾瀬に何か話があってきたのだろうが、結局言い出せずに帰ってしまった。
その話が何であるか綾瀬には見当はついたが、聞かれもしないことを話してやるほどお人好しでも、墓穴を掘るほど間抜けでもない。
綾瀬は、スーツの胸ポケットを探って、煙草のパッケージの感触がないことを訝しんだ。しかしすぐに、禁煙を始めたばかりだということを思い出す。
綾瀬は、手持ち無沙汰になった手で所在なげに、頬杖をついた。
「さてと、どうなることか」
*
巴は、ダイニングテーブルの上で開いた帳面に集中できず、壁の時計に幾度となく目をやった。
『パンドラの匣』のゲームの件以来、学校帰りにマンションに寄る機会が増えた。別段これといった用事がある訳ではない。
宿題を片付けてそのまま帰るか、たまに夕飯を食べてていくぐらいだ。
学校から家に帰るのと、このマンションに来るのでは、当然こちらに来る方が余計に時間がかかる。それなのにここへ寄る理由を、巴自身も気付いていた。
巴にとってこの部屋が、居心地よく思える場所となった理由を、おいそれと認める訳にはいかないが、気が付くと巴はまた時間を確認している。
自分で自分のやっていることがおかしく思え、巴はちょっとだけ自嘲気味に笑った。それでも、その顔には期待が滲んでいる。
巴が待っている相手は、判を押したように四時頃には帰ってくる。玄関のカギを回す音がした。
玄関の靴で、巴が来ていることが分かったのだろう。愛美は、制服も着替えずに、ダイニングにまず顔を出した。
明るい声が、扉が開くと同時に飛び込んできたる。巴は、お帰りなさいと言葉を返す。
愛美は、真っ直にダイニングテーブルに近付いてくると、椅子に鞄を置きながら、宿題?と聞いてきた。巴は、ええと頷く。
「国語の意味調べと新出漢字の書き取りと、それから算数のプリントが一枚」
愛美は巴の正面に、腰を下ろした。
「小学生もこう考えると結構大変だね。それに、巴君にとっては、こんなの、大人が1+1とかやってるのと変わりないもんね」
愛美は算数のプリントを手にとると、ひらひらとさせた。比の問題だ。




