ファイルNo.1 パンドラボックス 57
そう、あの事件は終わったのだ。
実質的に、ゲームによる被害者は、今後一切出ないだろう。ゲーム会社もそう結論づけたようだ。ゲーム自体に問題はないと。
もう一つのラストに辿りつく確率は、限りなく低いがゼロではない。まず最初の、捜査方向を決める選択で、別のラストに辿りつくかどうかがもう決まってしまうのだ。
そこでサヤの身辺調査を選べば、ラストは通常モードでしか見ることはできなくなる。その時点で半数の人間が、ふるいにかけられる結果となる。
その後も、選別が繰り返され、その度に、ふるい落とされていく。
パンドラの匣を開くカギを手にした人間は、よほど運がいいか悪いかのどちらだろう。
そして一旦ラストが決まれば、再び初めからゲームをやり直し、遺留品の調査をしたところで、物語はアンジの弟が犯人という結末を変えることはない。
巴が確かめたので、それは間違いなかった。
そして、二度と再びアンジの旅立ちを意味するラストを見ることは、適わなかった。
巴は、東大寺の病院に行くのにゲームをそのままにしておいたのだが、家に戻った愛美に片付けられてしまったのだ。
ゲームをやるのに一睡もできなかっただけでなく、気の張る作業だった為に、全てが終わったと感じた途端、巴は抗えないほどの睡魔に襲われた。
巴は情けないと思いながらも、愛美にタクシーに押し込まれて家路についた。
そして次の日、愛美によってゲームはしまわれていた。
巴はゲームを家に持って帰って、やった。その時は無理をせず、暇潰し程度にゆっくりと。もう急ぐ必要はないからだ。
しかし、再びあのラストを見ることはどうやってもできなかった。パンドラの匣は、永遠に封印されてしまったのだ。
愛美は何度も、自分の所為だと言ってすまながっていたが、彼女が悪いのではない。まさか、そこまで証拠隠滅の手筈が整えられているとは、巴も考えだにしなかった。
東大寺が無事に目覚めるとは思っていなかった分、魔法でも見ているような心地だった。
愛美は東大寺のベッドの脇に踞くと、東大寺の手を両手で祈るように握り締めた。
いつも元気で軽口ばかり叩いている東大寺の、窶れ果てた姿など見ていて気分のいいものではない。
巴は、扉の側で立っていた。
愛美は、今にも泣き出しそうな声音で、東大寺をお兄ちゃんと呼んだ。
――お兄ちゃん。死なないで、お兄ちゃんが死んだら、千尋のことは、誰が覚えていてくれるの。千尋のことを一番考えてくれたのは、お兄ちゃんなんだよ。




