ファイルNo.1 パンドラボックス 52
点滴による栄養注入だけで、何日ももたされていた東大寺の体は、食事を欲するものの、初めは受け付けなかった。
だが三度のお粥では、戻る体力も戻らない。東大寺は、ひもじい思いをしていた。食事こそ、東大寺の身体の基本だ。
目覚めたその日の内に連絡がいったのか、綾瀬の秘書の西川が、当座の入り用なものを揃えてくれた。
思えば西川には、SGAに入社以来お世話になりっぱなしだった。いつも日陰に回っているが、綾瀬の秘書にしておくのは勿体ない。
体力と食欲が戻ってくると、病院ほど退屈なところはない。見にきてくれる白衣の天使との会話が、唯一の東大寺のオアシスタイムだった。
食事の時間は、東大寺にとっての楽しみだが、今日の昼食もお粥に、炊いた煮魚に、おしんこという、全く質素極まりないものだ。
全部平らげたが、お粥ならあと十杯ぐらい食べられるだろう。なにぶん成長期の青少年なのだ。
失った体力を取り戻そうと、身体は飢えきった状態だ。こんな食事の量では、絶対に足りない。
一時から面会時間だったが、二時頃、扉をノックする音が聞こえた。
どうぞと言うと、ノブが回ってヒョコッと顔を出したのは、愛美だ。桜台の制服を着ていた。
そういえば、日にちの感覚がおかしくなっているが、今日は土曜日だった。
愛美は、果物の詰め合わせと、花束を抱えていた。それプラス小さな紙袋を持っている。
――大荷物。
と、愛美は笑う。綾瀬からだという。
どうせなら、花より団子。もっと、食いごたえのあるものを寄越してくれればいいのにと、東大寺は思う。
愛美は、詰め所から花瓶を借りてきて、炊事場で花を生けてきて、東大寺の枕元の脇の枕頭台に飾ってくれた。
花の向きを矯めつ眇めつしながら、愛美は東大寺に笑いかけた。
「早く良くなって、退院してくださいね。もうすぐ私の誕生日なんだから、一緒にバースデーパーティーしてくれなきゃ、嫌ですよ」
愛美の誕生日は、六月二十三日だ。それまでになら東大寺も退院できるだろう。
長くなると言われれば、逃げるつもりだった。こんな食事では、いつまでたっても治らない。
それこそ、東大寺を病人にするつもりだろうか。
「バナナはまだ青いし。リンゴなら食べられそうですね」
愛美は果物カゴを物色しているが、メロンやマンゴーなどで、今すぐ食べられそうなものはない。




